猫の入浴、にぎやかすぎる洗い場から学んだこと──きれいにしようとするたびに愛が深まる話

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梅雨が明けたばかりの七月の夕方、浴室の床がじんわりと熱を持っていた。窓の外では蝉がまだ鳴いていて、脱衣所にはシャンプーの泡のにおいが漂っていた。そしてその中心で、うちの猫・ムギは全力で抵抗していた。

猫の入浴というものは、準備万端で臨んでも、たいてい予想の斜め上をいく。ムギはノルウェージャンフォレストキャットで、長い被毛が自慢の五歳のオス。ふだんはソファの上でのんびりしているくせに、お風呂場の扉を開けた瞬間だけ、どこかで野性の血が目覚めるらしい。今日もそうだった。抱き上げた瞬間、後ろ足で私の腕を蹴り、シャワーヘッドを握る手がぶれた。温かいお湯が顔にかかり、ムギはゆっくりと振り返った。その目が言っていた。「あなたのことは、もう信じない」と。

――心の中で小さくツッコんだ。「いや、きれいにしてあげてるんですけど」。

それでも洗う。洗い続ける。これが我が家のルーティンになって、もう三年になる。

きっかけは些細なことだった。ある夏の終わり、ムギが窓の隙間から脱走し、泥だらけで帰ってきた。あのときの毛並みは、もはや猫というよりモップに近かった。仕方なく初めてお風呂に入れてみると、思いのほか素直で、ぬるま湯の中でぷるぷると震えながらも静かにしていた。洗い終わってタオルで包んだとき、ムギはそのまま私の膝の上で眠ってしまった。温かくて、少し重くて、湿った毛の感触が手のひらに残った。あの感覚が、なんだか忘れられない。

猫の入浴は、基本的には必要ないとよく言われる。確かにそうだ。猫は自分でグルーミングをして清潔を保つことができる。でも、室内で暮らす猫は皮脂や静電気で意外と汚れが蓄積するし、長毛種ならなおさら毛の根元に汚れが残りやすい。きれいにしようと思ったら、やはり年に数回は洗ってあげたくなる。

お湯の温度は35度前後。これが大事だと気づいたのは、一度熱めにしてしまってムギが激しく暴れた経験があるからだ。子どもの頃、祖母の家で飼っていた猫も、お風呂が嫌いで、洗面台に入れようとするたびに大騒ぎだった。あの頃から、猫とお風呂の組み合わせはにぎやかなものだと決まっていたらしい。

ムギを洗うとき、私は「フォレスタ」というブランドの猫用低刺激シャンプーを使っている。無香料に近い、ほんのり草のような香りがして、ムギもこれだと比較的おとなしい。泡立てた手で背中から腰へとゆっくりマッサージしながら洗っていくと、最初はぐるぐると唸っていたムギが、いつの間にか目を細める瞬間がある。その一瞬だけ、猫と飼い主の間に、ちいさな休戦が訪れる。

すすぎが終わると、今度はタオルドライの時間だ。バスタオルでくるんで、ぽんぽんと押さえるように水気を取る。このとき、ムギはまるでタコのように全方向に手足を伸ばし、タオルの中から脱出しようとする。それでもなんとかドライヤーまでこぎつけ、低温の風を当てていると、だんだんと毛がふわふわに膨らんでくる。乾いた毛に触れると、指の間をすり抜けるような柔らかさがある。洗う前とは全然違う。これが、きれいにしようと手間をかけた先にある報酬だ。

洗い終わったムギは、しばらく不満げに部屋の隅でグルーミングをする。「余計なことをしてくれた」とでも言いたいのだろう。でも一時間もすれば、また私の足元に寄ってくる。猫の入浴はいつもにぎやかで、いつも少し大変で、それでも終わった後の静けさがやけに心地よい。

浴室の窓から、夕暮れの光が斜めに差し込んでいた。タイルの上に残った水滴が、オレンジ色に光っていた。ムギはもう、ソファの上で丸くなっていた。

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