猫に起こされる朝、ベッドの中でまどろむ幸福論

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梅雨明け直前の七月の朝は、空気がまだ湿っていて、カーテンの隙間からこぼれる光がどこか白く滲んでいる。エアコンをつけるほどでもなく、かといって窓を開ければ蚊が入る、そんな微妙な温度の朝。わたしはベッドの中で、羽毛布団を腰のあたりまで引き下ろしながら、もう少しだけ、あと五分だけ、と目を閉じていた。

そのとき、足元に小さな重みを感じた。

ソラが来た。三歳になったばかりのキジトラで、体重は三・八キロ。数字で言えば軽いはずなのに、眠っている人間の足の甲に乗るとずしりとくる。彼女はしばらくそこで丸まっていたが、やがてするすると体を伸ばし、わたしの腹のあたりまで歩いてきた。肉球の感触が、薄いシャツ越しにもはっきりわかる。ひんやりとして、やわらかくて、少しだけ湿っている。

「ニャ」

一声だけ。要求でも命令でもなく、ただ存在を知らせるような声だった。

わたしはゆっくりと目を開けた。ソラの顔がすぐそこにあった。可愛い瞳が、薄明かりの中でまん丸に開いている。猫の瞳孔は光の量によって形が変わるが、この時間帯の室内では、黒い円がいっぱいに広がって、まるで夜の湖みたいだ。見つめ返すと、ソラは瞬きをしなかった。ただじっと、わたしの目を見ていた。

猫に起こされる、という体験は、目覚まし時計に起こされるのとまったく違う。アラームは問答無用で現実に引き戻すが、猫はそうじゃない。夢とうつつの境目に、そっと前足を差し込んでくる感じがする。

子どもの頃、実家に縁側があって、夏の朝はそこに差し込む光で目が覚めた。起き上がると庭の金木犀がまだ青く、空気がひんやりしていた。あの感覚と、猫に起こされる朝は、どこか似ている。急かされていないのに、自然と体が動き出す感じ。

ソラはわたしの胸の上に顎を乗せ、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。その振動がじんわりと伝わってくる。インテリアブランド「ムーンリネン」のシーツは、洗いざらしの麻の手触りで、ソラの毛がよく映える。彼女の毛並みは朝の光の中で少し茶色みを帯びて、縞模様がくっきりと浮かぶ。

ベッドの中でまどろんでいると、時間の感覚がゆるやかに溶けていく。ソラがいると、それがさらに加速する。彼女はこちらの事情などお構いなしに、自分のペースで体温を分けてくれる。求めてもいないのに、勝手にあたたかくなっていく。

ふと思う。猫に起こされることを、わたしは本当は嫌だと思っていないのかもしれない。

部屋の外から、遠くで鳥が鳴いている。ヒヨドリだろうか、それともシジュウカラか、判断がつかないまま聞いていた。ソラの耳がぴくりと動いた。音を捉えるたびに、あの三角の耳が独立して動く。それを見ているだけで、なんとなく目が覚めてくる。

起き上がろうとすると、ソラはするりと横に避け、わたしの腕の内側に収まった。邪魔をするわけでも、引き止めるわけでもなく、ただ場所を変えただけ。その身軽さが、猫らしいと思う。

台所でお湯を沸かしながら、窓の外を見た。空はまだ白っぽく、青くなりきっていなかった。ソラはいつの間にかベッドに戻り、わたしが寝ていた場所にぴたりと収まって目を閉じていた。

……人を起こしておいて、自分はそのまま二度寝である。

まあ、いい。そういう生き物だと知っていて、それでもいっしょに暮らしている。ベッドの中でまどろんでいた時間も、起こされた瞬間も、全部ひっくるめて、この朝はわたしのものだ。可愛い瞳に見つめられて始まる朝は、どんな目覚ましよりも、少しだけ特別な気がする。

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