猫の入浴、にぎやかすぎる我が家のきれいにしよう大作戦

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七月の夕方、西日がオレンジ色に浴室のタイルを染めるころ、我が家のバスルームはいつも戦場になる。相手は三キロちょっとのサバトラ、名前はムギ。こちらは人間ひとり、腕まくりをして、ひざまずいて、ありったけの覚悟を持って臨む。猫の入浴というのは、そういうものだ。

ムギを迎えてから一年半が経つ。長毛種ではないけれど、換毛期になると抜け毛がすごくて、ブラッシングだけでは追いつかなくなる。そこで半年に一度ほど、きれいにしようと決意してシャンプーに踏み切るのだが、これがまあ、毎回にぎやかなことになる。

猫にはもともと自分で体をなめて整える「グルーミング」という習性があり、舌がブラシのように汚れや抜け毛を取り除いてくれる。
だからムギも普段は清潔だ。でも、あの独特のもふもふした毛の奥に積もった何か——ほこりとも生活の気配ともつかないもの——が気になりはじめると、もう止まらない。

準備は念入りにする。
浴室に入ってから「タオルがない」「シャンプーを忘れた」とバタバタすると、その空気が猫にも伝わって不安が強くなり、暴れたりパニックになったりする原因になる。
だから前日のうちに「ニャンズ・ラボ」という猫専用低刺激シャンプーをボトルごと浴室に置き、タオルを三枚重ねて棚に並べ、滑り止めマットを敷いて、万全の態勢を整えておく。

お湯の温度は35度くらいのぬるま湯に設定しておく。シャワーをあてる際は、シャワーヘッドを体にくっつけて濡らしていく。
最初の一滴が背中に触れた瞬間、ムギの目がまん丸になる。ここからが本番だ。

鳴き声というより、もはや演説に近い。「ウアー」「ニャウ」「ウ゛ー」と、三種類ほどの声が矢継ぎ早に飛んでくる。浴室の壁に反響して、にぎやかという言葉がこれほどぴったりくる状況もそうそうない。隣の部屋まで聞こえているだろうな、と思いながら、それでも手を止めずにやさしく泡立てていく。シャンプーのほのかな無香料の清潔な香りが湯気とともに広がって、浴室全体がふわっと白くなる気がした。

顔に水がかかることを猫は非常に嫌がるので、お尻や後ろ足などから少しずつ濡らして徐々にお湯に慣れさせる。
それを知ってからは、ムギの顔だけはタオルで拭き取るようにしている。それでも顔周りに泡が近づくたびに、ムギは首をぐいっとそらして抵抗する。その仕草がなんとも人間くさくて、思わず笑ってしまう。

ちなみに一度だけ、シャンプーを流し終えたあと、タオルを取りに振り返った隙にムギが浴槽の縁に飛び乗り、そのまま全力でリビングへ駆け出したことがある。濡れた足跡が廊下に点々と続いていて、まるでミステリー小説の現場みたいだった。追いかけながら、心の中で「これ、絶対に笑える話になる」と思っていた。実際そうなった。

タオルドライを終えたら、ドライヤーを使う。負担をかけないよう温度を低くして体から離れた位置で風を当て、毛の根本からしっかり乾かす。
ドライヤーの音が苦手な猫も多いけれど、ムギは意外とこれが嫌いではないらしく、温風を当てていると少しずつ目を細めていく。さっきまであんなに暴れていたのに、今は膝の上でうとうとしはじめている。その寝落ちの速さに、毎回ちょっと置いてけぼりをくらう。

子どもの頃、実家で飼っていた猫も同じだった。お風呂のあとだけ、やけに甘えてくる。濡れた毛が乾いていく途中の、あのふわっとした温かさと、かすかに石けんの香りが残る感触。あれが好きで、わざと膝を差し出していたのを思い出す。

きれいにしようとする行為は、猫にとっては迷惑かもしれない。でも乾いたあとのムギの毛並みは、いつもより少しだけやわらかくて、光の当たり方によってはきらきらして見える。それを確かめるたびに、また半年後もやろうと思う。浴室の壁に残った小さな爪跡を眺めながら、今日もそう決めた。

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