猫が雨の日に窓辺で教えてくれたこと

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窓の外が白く煙ってる。

うちの猫は雨が降ると必ず窓辺に座る。べつに外に出たいわけじゃない。ただ見てるだけ。最初は何がそんなに面白いんだろうって思ってたんだけど、ある日ふと隣に座ってみたら、なんとなくわかった気がした。雨粒がガラスを叩く音って、近くで聞くと思ったより大きいんだよね。トトトトって、誰かがドアをノックしてるみたいな。

猫の名前はまだ決めてない。飼い始めて三ヶ月経つのに。

最初は「ミケ」とか「タマ」とか色々考えたんだけど、どれもしっくりこなくて。で、気づいたら「ねこ」って呼んでた。「ねこ、ごはん」「ねこ、そこダメ」みたいな感じで。友達には「それ名前じゃなくて種族名じゃん」って笑われたけど、本人(本猫?)は別に気にしてなさそうだし、まあいいかなって。名前って、呼ばれる側より呼ぶ側の問題な気がする。

雨の日の午後三時くらいって、妙に時間が止まってる感じがしない?外は薄暗くて、部屋の電気つけるほどでもなくて。コーヒー淹れようかなって思いながら結局淹れないで、猫の隣でぼーっとしてる。窓の向こうでは誰かが傘さして小走りに駅の方へ向かってて、その後ろ姿が雨に溶けていく。猫はそういうのを全部見てる。尻尾の先だけ、たまにピクって動く。

前に住んでた部屋は一階だったから、窓から見えるのは隣のアパートの壁だけだった。

引っ越してきて一番良かったのは、この窓かもしれない。四階だから空が広く見えるし、向かいのマンションとの距離もちょうどいい。近すぎず遠すぎず。雨の日は特に、窓の外が一枚の絵みたいになる。灰色のグラデーション。猫を飼うまでは気づかなかったけど、この景色って毎日ちょっとずつ違うんだよね。雲の形とか、雨の降り方とか、通る人の服の色とか。

猫は人間みたいに「きれいだな」とか思ってるわけじゃないんだろうけど、でも何かは感じてるはず。じゃなきゃあんなに真剣な顔で見つめないでしょ。耳がぴんと立ってて、瞳孔が少し開いてて、ひげが前に向いてる。その横顔を見てると、こっちまで集中力が伝染してくる感じがする。

スマホを見るのをやめた。

別に意識してやめたわけじゃなくて、猫と一緒に窓の外を見てたら自然と手から離れてた。SNSとかニュースとか、あれって見てる間はすごく重要な気がするけど、見るのやめても別に何も変わらないんだよね。雨は降り続けてるし、猫は相変わらず窓の外を見てるし、部屋は静かなまま。たまに冷蔵庫がブーンって鳴るくらい。

この前、会社の同僚に「休日何してるの」って聞かれて、「猫と窓の外見てる」って答えたら「…それだけ?」って顔された。うん、それだけ。でもそれが意外といい。何もしない時間って、実は贅沢なんじゃないかって最近思う。予定を詰め込んで、効率的に動いて、充実した休日を過ごさなきゃって焦ってた頃より、今の方がずっと楽。

雨粒が窓ガラスを伝って落ちていくのを目で追う。

一粒だけ追いかけようとしても、途中で他の雨粒と合体したり、急に方向変えたりして、すぐ見失う。猫もそうやって見てるのかな。それとも全体をぼんやり眺めてるだけなのかな。聞いても答えてくれないから、想像するしかない…けど。

外ではカラスが一羽、電線に止まって羽繕いしてる。濡れた羽を嘴で整えながら、時々こっちを見る。猫の耳がぴくっと動いた。カラスと目が合ってるのかもしれない。ガラス一枚隔てた、種族を超えた無言の会話。僕はその間に座ってる第三者。部屋の中は乾いてて温かくて、外は冷たい雨に濡れてて、境界線の上で三者三様に時間を過ごしてる。

結局コーヒーは淹れなかった。喉も乾いてないし、動くのも面倒で。猫の背中に手を置くと、ゴロゴロと小さく喉を鳴らす。でも視線は窓の外から動かない。僕もまた窓の外を見る。雨はまだ降ってる。

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