猫に起こされる朝、ベッドの中でまどろむ幸せな時間

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春の終わりかけ、4月の終わりのある朝のことだった。カーテンの隙間からやわらかい光が差し込んで、部屋の空気がほんのり白んでいる。時計は6時14分。アラームよりも早く、その日の朝はいつもとちがう方法で始まった。

ベッドの中でまどろんでいると、ふいに足元に小さな重みを感じた。ずっしり、というよりも、そっと置かれるような、あの独特の感触。うちの猫、麦(むぎ)だ。生後3年のキジトラで、体重は4.2キロ。決して軽くはないのに、歩くときだけはなぜかびっくりするほど静かで、気がつくといつもそこにいる。

猫に起こされる、という経験をしたことがある人なら、あの感覚がわかるはずだ。夢と現実のあいだで、体だけが先に目を覚ます瞬間。麦はゆっくりと私の腹の上を歩き、胸のあたりで丸くなった。呼吸に合わせて体が上下するたびに、麦の体温が布団越しに伝わってくる。じんわりと、まるでカイロを抱いているみたいに温かい。

目を開けると、すぐ目の前に麦の顔があった。その可愛い瞳が、じっとこちらを見ている。琥珀色の瞳の中に、窓からの朝の光が小さく映り込んでいた。怒っているわけでも、甘えているわけでもない。ただただ、まっすぐに。その視線には「起きろ」とも「なでろ」とも読めるような、どちらとも取れる真剣さがあって、思わず笑ってしまった。

子どもの頃、実家に猫がいた。あのころは猫が布団の上に乗ってくることを少し迷惑に思っていた気がする。早く起きなさい、と母に言われるたびに、猫のせいにして布団にもぐり込んでいた。あの猫も今の麦と同じように、こうして朝の光の中でじっと人の顔を見ていたのだろうか。

麦がひとつ、小さなあくびをした。ピンク色の舌が丸まって、目がきゅっと細くなる。そのまま伸びをして、ごろんと横になった。起こしに来たのか、それとも一緒に二度寝するつもりなのか。どちらにしても、こちらはもう完全に目が覚めてしまっている。麦のほうは瞼を閉じて、すでに夢の中に戻りかけていた。——起こしに来たのはどっちだ、と心の中で静かにツッコんだ。

ベッドの中で、しばらくそのまま動かずにいた。麦の背中に手を当てると、細かくゴロゴロと振動が伝わってくる。その音は低くて一定で、どこか遠い海の波に似ている。インテリアショップ「フォグリネン」で買ったリネンのシーツがひんやりとして、そこだけ春の朝の冷たさを残していた。

窓の外では小鳥が鳴いている。たぶんヒヨドリだ。枝が風に揺れる音も混じっている。部屋には昨夜のハーブティーのかすかな香りが残っていて、ラベンダーとカモミールが混ざったような、眠気を誘う匂いだ。

こういう朝が好きだ、と思う。急かされることなく、ただ猫と一緒にベッドの中にいる時間。麦は何も求めていないようで、でも確かにここにいることを選んでいる。その小さな事実が、なんとなく嬉しかった。

猫に起こされる朝は、不思議と一日の始まりがやさしくなる。アラームの音で飛び起きる朝とはちがう、体がゆっくりと世界に戻ってくるような感覚がある。麦がいなければ、私はきっと今日もギリギリまで眠っていただろう。感謝すべきなのかもしれない。その可愛い瞳に、少しだけ。

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