
十月の朝は、空気がちがう。
窓の外がまだ薄暗いうちに、ソファの端でまるくなっていたムギが、するりと立ち上がって伸びをした。背骨がゆっくりと弓なりになって、また元に戻る。その一連の動きを、ぼんやりと眺めながら、ふと思う。この子は今日も、ちゃんと体を整えているのだと。
猫と暮らすようになってから、体調に気をつけることへの意識が変わった。以前の自分は、多少しんどくても「まあいいか」と流してしまうタイプだった。でも今は、ちがう。毎朝ムギの動きを確認するうちに、自然と自分の体の状態にも目が向くようになった。
猫はとても我慢強く、体の不調を隠す傾向がある。
だからこそ、飼い主が毎日の小さな変化を見逃さないことが大切になる。目の輝き、毛並みのつや、歩き方のリズム。そういうものを観察していると、動きに気をつけることがいかに重要かを、身をもって学ぶ。
先週の朝のことだ。ムギがいつもより少しだけゆっくりと階段を降りてきた。一段ずつ、確かめるように。普段なら三秒で駆け下りてくるところを、たぶん十秒はかかっていた。それだけのことなのに、胸がざわっとした。結果的には単なる寝起きの眠気だったらしく、ご飯を前にしたら元通りの俊敏さを取り戻したのだが(こちらの心配は完全に空振りだった)、あの瞬間の緊張感はずっと残っている。動きに気をつけるとは、そういうことだと思う。
気温変化があり体調を崩しやすい季節には、ゆっくり眠ってもらって、パワーを蓄えてもらうことも大事なケアだ。
秋は特にそうで、夏の疲れが出やすい時期でもある。人間も同じだけれど、猫はそれを言葉にできない。だから飼い主が、季節の移ろいに合わせて暮らし方を少しずつ調整してあげる必要がある。
食事に気をつけることも、この季節の大きなテーマだ。
うちでは以前、「ネコノワ」というブランドのウェットフードを試したことがある。国産の白身魚ベースで、開けた瞬間にふわっと磯の香りが広がる。ムギは最初、器に鼻を近づけてしばらく動かなかった。食べるのか食べないのか、しばらく判断がつかなかったが、やがてゆっくりと舌を伸ばしはじめた。あの「試食の間」が、なんとも猫らしかった。
食事と水分の管理においては、猫に必要な栄養がバランス良く含まれている総合栄養食を選び、尿と便の変化を記録することも健康管理に役立つ。
食事に気をつけることは、日々の観察とセットで初めて意味を持つのだと実感している。
猫のごはんの時間に合わせて自分の食事内容や生活サイクルを見直すことで、不規則になりがちな生活習慣が自然と整っていく。
これは本当にそうで、ムギのご飯の時間が、いつのまにか自分の朝のリズムになっていた。猫に起こされ、猫にご飯を用意し、猫と一緒に朝を始める。そのルーティンが、自分自身の体調管理にもつながっている。
子どもの頃、実家にいた猫のことを思い出す。名前はコムギといって、白と茶のまだら模様だった。あの子は晩年、食欲が落ちてきたとき、家族全員が気づくまでに少し時間がかかってしまった。もっと早く食事に気をつけて見ていれば、と今でも思う。その記憶が、今のムギへの眼差しをつくっている気がする。
夕方になると、窓から差し込む光が橙色に変わる。その光の中でムギが毛づくろいをしている姿を見ると、なんとも言えない安堵感がある。毛並みのつやがある。目が澄んでいる。体を丁寧に舐めている。それだけで、今日も大丈夫だと思える。
シニアペットの約7割は健康とされる一方で、約3割には何らかの不調の兆しが見られる。
まだ若いムギにも、いつかそういう日が来るかもしれない。だからこそ、今のうちから体調に気をつける習慣を、ふたりで一緒に積み上げていきたいと思っている。
猫がいるから、今日も丁寧に生きようとする。それだけで、十分な理由になる。

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