読書する私の邪魔をする猫が、どうしようもなく愛おしい猫である理由

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六月の夕方、窓から差し込む斜めの光がフローリングの上にうっすらと橙色の帯を描いていた。エアコンをつけるにはまだ少し迷う、そんな曖昧な温度の夜の入り口。私はソファに深く沈み込んで、ずっと積んだままにしていた文庫本をようやく開いた。ページをめくるたびに、古い紙の少しだけ甘い匂いがする。子どもの頃、祖母の家の本棚から勝手に引き抜いた本も、こんな匂いがした。あの頃は内容より匂いの方が好きだったかもしれない。

読み始めて五分も経たないうちに、それは起きた。

ソファの端に置いていたブランケットの上から、するりと滑るように白と茶のまだら模様をした猫——ムギ——がやってきた。最初は遠巻きにこちらを見ていた。しっぽがゆっくりと左右に揺れている。その目が「まだ読んでるの?」と言っているような気がして、私は思わず視線を逸らした。逸らしたら負けだと、なぜか思った。

しかし、ムギは容赦しない。

静かに、しかし確実に、開いたページの上に前足を乗せてきた。そのまま体重をかけて、どっしりと本の上に座り込む。邪魔をする猫、とはまさにこのことだ。文字が完全に隠れた。栞代わりに使っていた薄紙のレシートが、ムギの重みでくしゃりと音を立てた。

「ムギ、そこはダメ」

声に出してみたが、当然のように無視される。むしろ少し体をずらして、より快適な姿勢を探しているようにすら見えた。読書する私のことなど、まるで眼中にない。いや、眼中にありすぎるのかもしれない。

飼い主が何かに集中してじっとしていると、猫は飼い主が暇だと勘違いして「遊んでよ」とアピールする
らしい。なるほど、ムギからすれば私はただ静かに座っているだけの存在で、これほど「かまってほしいサインを出すタイミング」はないということになる。そう思うと、少しおかしかった。

ムギはそのまま丸くなり始めた。本の上で、である。

しばらくして、小さな寝息が聞こえてきた。ゴロゴロという低い振動が膝に伝わってくる。温かい。柔らかい。この感触を、なんと言えばいいのだろう。インテリアブランド「ノルネスト」の上質なクッションより、ずっと生きている感じがする。

こういうとき、私はいつも同じことを思う。本は逃げない、でもこの瞬間は逃げる、と。

「読書していても膝に乗ってそのまま寝てしまうので、こちらは動けなくなる。不自由さも楽しんでいます」
という声があるように、猫と暮らす人はみんな、どこかでこの「動けない幸福」を知っている。

愛おしい猫、というのは本当に不思議な存在だ。邪魔をする猫であることは間違いない。ページはめくれない、集中は途切れる、栞は折れた。それでも怒れないのは、ムギが悪意のかけらも持っていないからだと思う。ただ、私のそばにいたかっただけ。それだけのことを、あの小さな体で全力でやっている。

猫のかまってサインを見たとき、邪魔だと怒るのではなく優しく撫でてあげれば仲が深まる
という。わかってはいる。わかってはいるのだが、撫でた途端にムギは目を細めてさらに深く眠り込み、私の本を返してくれる気配は完全になくなった。これはこれで、策略だったのかもしれない、と心の中で軽くツッコんでおく。

窓の外では、夕暮れがゆっくりと紺に変わっていく。風が少し出てきたのか、カーテンの端が揺れた。ムギの耳がぴくりと動いて、また静かになる。

本は、明日読めばいい。そう思いながら、私はそっとムギの背中に手を置いた。毛並みの柔らかさと、その下にある小さな体温。これが今夜の、いちばん大事な読書かもしれない。邪魔をする猫と、読書する私の、どちらが本当に満たされているかといえば——きっと、私の方だ。

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