猫をきれいにしよう——にぎやかな入浴劇と、ぬるま湯の向こう側

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九月に入っても、昼間の空気はまだ夏の名残を引きずっている。窓から差し込む光が床に白い四角を描く午後三時ごろ、わたしはまた洗面台の前に立っていた。腕まくりをして、猫用シャンプーのボトルを棚から取り出す。この動作も、もう何十回繰り返しただろう。

うちには猫が三匹いる。麦、小豆、それからシロ。この三匹をきれいにしよう、と思い立ったのはいいのだが、毎回これがなかなかの大仕事になる。猫の入浴というのは、飼い主にとっての小さな戦争だ。

最初に洗面台に連れてきたのは、一番おとなしいはずの小豆だった。「はずの」というのが重要で、今日の小豆はどういうわけか目がギラギラしていた。ぬるま湯を足先からそっとかけると、一瞬だけ静止して——次の瞬間、わたしの腕に爪を立てながら洗面台の縁に飛び乗った。ちなみにそのとき、シャンプーのボトルを持ったわたしの手が滑って、泡が自分の顔にかかった。猫はそれを見て、なぜか少しだけ落ち着いた(気がした)。

猫のお風呂は、落ち着いていて少し疲れているときを選ぶと、スムーズに進めやすくなる。
とはよく言われる。わかってはいる。でも三匹分となると、「ベストなタイミング」を三匹分揃えるのはほぼ不可能に近い。誰かが眠そうなとき、別の誰かは全力で走り回っている。

洗面台のタイルは冷たく、蛇口から流れるお湯の音だけがにぎやかに響いていた。湯気がうっすら立ち上り、シャンプーの微かな植物系の香りが漂う。「ネコリボン」という猫専用のオーガニックシャンプーで、友人に勧められて使い始めたものだ。泡立ちがよくて、すすぎも早い。これを見つけてから、猫の入浴がほんの少しだけ楽になった。

シャンプーはあらかじめ洗面器などでぬるま湯と混ぜてよく泡立て、指の腹でマッサージするように優しく洗うことで、皮膚への負担を軽減し、汚れを効率的に落とすことができる。
この手順を覚えてから、三匹の毛並みが明らかによくなった。特にシロは長毛種なので、丁寧に泡を行き渡らせると、乾かしたあとの毛がふわりと広がって、触れると雲みたいだった。

猫は顔が濡れることを嫌うので、お湯に漬けるのは首あたりまでにして、顔周りは濡れタオルで優しく拭く程度にするのがよい。
この鉄則だけは絶対に守る。顔に水がかかった瞬間の猫の表情は、申し訳ないけれど少し笑ってしまうほど絶望的だから。

二匹目の麦を洗い終えたころ、外の光が少しだけ傾いていた。午後四時を過ぎたあたりの、金色に近い斜光が洗面台の鏡に反射して、濡れた麦の毛がきらきらと光る。タオルで包んで抱き上げると、体温がじんわりと手のひらに伝わってきた。ぶるぶると震えているくせに、鳴かないのが麦らしかった。

子どものころ、実家にいた猫を風呂場に連れ込んで大騒ぎになったことを思い出す。あのとき猫は見事に逃げ切り、わたしだけびしょ濡れになった。あれから二十年近く経って、今は三匹を順番に洗えるようになった。上達したのか、それとも単に慣れただけなのか、自分でもよくわからない。

猫の皮膚は薄くデリケートなため、洗いすぎると必要な皮脂まで洗い流され、かえって皮膚病になってしまう恐れがある。
だから頻度には気をつけている。月に一度か二度、汚れが気になったときだけ。あとは
お湯で濡らしてかたく絞ったタオルで全身を拭く「清拭」という方法が、猫への負担が少なくておすすめだ。

三匹目のシロを洗い終えたとき、もう窓の外は夕暮れの色に変わっていた。バスタオルにくるまれた三匹が、リビングのラグの上にそれぞれ丸まっている。にぎやかだった洗面台が、嘘みたいに静かになっている。

ドライヤーの温風をあてながら、ゆっくりと毛を乾かしていく。その音に慣れてきたのか、シロがうとうとしはじめた。目が半分閉じて、耳だけがぴくぴくと動いている。きれいにしよう、と思って始めたこの一連の作業が、気づけばこんなに穏やかな時間になっていた。

猫の入浴は大変だ。でも、乾いたあとの柔らかさと、湯上がりの静けさのために、またやろうと思う。きっと来月も、わたしは腕まくりをして洗面台の前に立つだろう。

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