
朝ごはんを食べようとテーブルに座ると、うちの猫がすでにそこにいる。
別に呼んだわけじゃないのに、食事の気配を察知する能力だけは異様に高い。トーストを焼く音が聞こえた瞬間、どこからともなく現れて、私の真正面に陣取る。で、じっと見てくるんだよね。食べ物を要求してるわけでもなく、ただ見てる。この「ただ見てる」っていうのが、猫と暮らすようになって一番戸惑ったことかもしれない。最初の頃は「何か欲しいの?」って聞いてたけど、今ではもうそういうもんだと思ってる。
猫の時間感覚って人間と全然違う。私がバタバタと朝の支度をしてる横で、彼女は窓際で毛づくろいを始める。一本一本、丁寧に舐めていく。その様子を見てると、こっちまで時間がゆっくり流れてる気がしてくる。朝の8時っていう、本来なら焦る時間帯なのに。
食事中も猫はそこにいる。私がコーヒーを飲んで、パンを齧って、スマホをちらっと見て…っていう一連の動作を、ずっと観察してる。時々、私の手元に顔を近づけてきて、匂いを嗅ぐ。バターの匂いが気になるらしい。でも食べようとはしない。ただ確認してるだけ。
そういえば前に、友達が「猫って一緒に食事してる感じがしないよね」って言ってたのを思い出した。確かにそうかもしれない。犬だったら「僕にもちょうだい!」って全力でアピールしてくるけど、猫は違う。同じ空間にいるだけ。でもそれが悪いわけじゃなくて、むしろこの距離感が心地いい。
夜ごはんの時間になると、また猫がやってくる。今度はキッチンカウンターの端っこに座る。私が野菜を切ってる音、フライパンで何かを炒める音、そういうのを全部聞いてる。たまに「ニャー」って鳴くけど、それも何かを要求してるわけじゃなくて、「今日は何作ってるの?」って聞いてる感じ。勝手にそう解釈してる。
この前、深夜2時くらいに小腹が空いてカップ麺を作ったことがあって。お湯を注いで待ってる3分間、猫が隣に座ってきた。真夜中の静かなキッチンで、カップ麺の匂いと猫の体温。なんか変な組み合わせだけど、妙に落ち着いた。あの3分間、すごく長く感じたな…。
猫と暮らすようになってから、食事の時間が変わった気がする。以前は効率重視で、とにかく早く済ませることばかり考えてた。栄養バランスがどうとか、時短レシピがどうとか。でも今は、猫が隣にいるだけで、自然とペースが落ちる。急ぐ必要がないって思える。
休日の昼下がり、遅めのブランチを食べてる時なんか特にそう。窓から差し込む光の中で、猫は目を細めて気持ちよさそうにしてる。私はゆっくりとパンケーキを食べて、紅茶を飲む。テレビもつけない、音楽もかけない。ただ静かな時間が流れてる。こういう時間って、一人暮らしの頃にはなかったかもしれない。
別に猫が何かしてくれるわけじゃない。話しかけても返事はないし、料理を手伝ってくれるわけでもない。ただそこにいるだけ。でもその「ただそこにいる」っていうのが、食事の時間をまったり変えてくれてる。
最近気づいたんだけど、猫って私が食べてる時、ほとんど動かない。じっとしてる。まるで「この時間は動いちゃいけない」って分かってるみたいに。不思議だよね、そういうの。
人間の食事と猫の時間、本当は何の関係もないはずなのに、いつの間にか混ざり合ってる。

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