
窓の外から、金木犀のかすかな甘さが漂い込んできた朝のことだった。
ソファの肘掛けに丸まっていたうちの猫、ムギが、いつもと少しだけ違う場所で眠っているのに気づいた。毎朝決まって日当たりのいい東側の窓辺を選ぶくせに、その日は部屋の隅、暖房の吹き出し口のすぐそばに体を寄せていた。ほんの小さな変化だ。でも、そういう「いつもと違う」に気づけるかどうかが、猫と暮らす上でとても大切なことだと、何年も一緒にいてようやく分かってきた。
猫は言葉で不調を伝えられない。だから元気や食欲、排泄の様子といった健康のバロメーターを、飼い主が毎日チェックしてあげる必要がある。
頭では分かっていても、忙しい日々の中でそれを続けるのは、意外と難しい。
10月に入り、朝晩の気温がぐっと下がってきた。日中はまだ半袖でいられるのに、夜になると毛布を引き寄せたくなる。この寒暖差こそが、猫にとっても人間にとっても体調を崩しやすいタイミングだ。
気温変化があり体調を崩しやすい季節には、ゆっくり眠ってもらってパワーを蓄えてもらうのも大事なケアだ。
体調に気をつけるという意識は、まず「見ること」から始まる。
ムギが水を飲む量が減っていないか。トイレの回数に変化はないか。毛並みにつやがあるか。ブラッシングをしながら体をそっと触れると、しこりや張りがないかも確認できる。
ブラッシングやスキンシップの時間は、被毛のケアになるだけでなく、飼い主との触れ合いが猫の心の安定につながる場合もある。
手のひらに伝わる体温と、小さなゴロゴロという振動。あの感触があると、こちらも自然と息をゆっくり吐き出せる気がする。
食事に気をつけることも、体調管理の根幹だ。
猫の主食には「総合栄養食」と記載のあるフードを選ぶのがよい。それとお水だけで健康を維持できる、栄養バランスの整ったフードだ。
以前、友人に勧められた国産のキャットフードブランド「ハナモリ」を試したことがある。原材料がシンプルで、ムギの食いつきも良かった。ただ、切り替えた最初の週に少し便が緩くなって、あわてて以前のフードと混ぜながら少しずつ移行した。
規則正しい食事リズムは、猫の肥満予防にもつながる。
量と時間を一定に保つだけで、胃腸への負担がずいぶん変わる。
そして、動きに気をつけること。
スマート首輪などのウェアラブルデバイスは、猫の「食事」「水飲み」「睡眠」「毛づくろい」「歩く」「走る」といった行動をAIが判定し、アプリで可視化してくれる。いつもより睡眠時間が長すぎたり、極端に活動量が減ったりした場合にアラートで知らせてくれるため、体調の変化にいち早く気づくことができる。
テクノロジーの力を借りるのも、もちろんいい。でも個人的には、夕方にムギが廊下をパタパタと走り回るかどうか、それだけで「今日も元気だな」と分かる。猫の動きというのは、言葉よりずっと正直だ。
ちなみに先日、ムギの様子を観察しようとソファにそっと腰を下ろした瞬間、猫用おもちゃのネズミを踏んでしまい、「ぎゅっ」という情けない音を立ててしまった。ムギはびっくりして飛び起き、じろりとこちらを見た。その目つきがあまりにも「何してるの」という顔で、思わず小声で謝ってしまった。観察する側が先に気配を消せていなかった、という話である。
特に7歳以上のシニア猫の割合は年々増加しており、老化に伴う健康問題が顕在化している。
ムギはまだ4歳だが、それでも毎年の健康診断は欠かさないようにしている。
年に1回は動物病院での健康診断や予防医療を行い、病気の予防や早期発見を心がけることが大切だ。
秋の夕暮れは早い。オレンジ色の光が部屋の床をゆっくりと移動していく頃、ムギはまた定位置に戻って目を細めていた。その穏やかな横顔を見ていると、体調に気をつけるということは、特別なことではないと思えてくる。毎日の小さな観察と、ちょっとした気づかいの積み重ね。それが、猫と人間が長く、穏やかに暮らしていくための、いちばんシンプルな答えなのかもしれない。

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