猫に起こされる朝は、いつも予定より30分早い

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まぶたの裏側がオレンジ色に染まる感覚で、朝が来たことを知る。

まだ起きたくない。布団の中は完璧な温度で、枕も昨夜のうちにちょうどいい高さに沈んでいる。スマホのアラームまであと20分くらいあるはずで、この20分間の二度寝が至福なんだよね。目を閉じたまま、もう一度深く息を吸い込んだ。

そのとき、ベッドの端がわずかに沈んだ。

0.8秒後、顔の上に柔らかい重みが乗った。猫だ。うちで飼ってる三毛猫のマロが、私の鼻先に自分の鼻を押し付けてくる。ひげが頬をくすぐって、かすかに魚の匂いがする。昨日の夜中にこっそりキッチンで何か食べたな、こいつ。目を開けると、至近距離に琥珀色の瞳があった。真ん丸で、まばたきもせずにこっちを見つめている。可愛いけど、正直ちょっと怖い。

「まだ寝たいんだけど…」って小声で言ってみたけど、マロは動じない。

それどころか、私の胸の上に全体重を預けて座り込んだ。4キロちょっとの重さが、ゆっくりと肺を圧迫してくる。呼吸が浅くなる。こうなったらもう観念するしかないんだよね、毎朝のことだから分かってる。抵抗しても無駄。猫に起こされる朝は、絶対に二度寝できない。

去年の冬、友達のユミが「自動給餌器買えばいいじゃん」って言ってきたことがある。確かに「ペットフィーダーPro X3」みたいなやつを設置すれば、朝の催促は減るかもしれない。でも試しに買ってみたら、マロは餌が出てきても満足しなくて、結局私を起こしに来た。あいつが欲しいのは餌じゃなくて、私が起きることそのものなんだと思う。支配欲っていうか、確認作業っていうか。

ベッドの脇に置いてあるカーテンの隙間から、細い光の筋が入り込んでいる。たぶん6時半くらい。外ではもうカラスが鳴いていて、遠くで車のエンジン音がする。世界はもう動き始めてる。私だけが、この薄暗い部屋の中で、猫に見張られながら布団にしがみついている。

マロは私の胸の上で、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

その振動が胸に伝わってきて、なんだか心臓の鼓動と混ざり合う感じがする。目が合うと、マロはゆっくりと瞬きをした。猫の世界では、これは「信頼してるよ」っていう合図らしい。本で読んだ。可愛いなとは思うけど、それでも起きたくはない。

「あと10分だけ」って交渉を試みる。当然、マロには通じない。代わりに、前足で私の頬を軽く叩いてきた。肉球のぷにぷにした感触。爪は出してないから痛くはないけど、これは最後通告だ。次は本気で引っ掻かれる。過去に何度も経験してる。

仕方なく体を起こすと、マロは満足そうに飛び降りて、ドアの前で振り返ってこっちを見た。

早く来い、っていう顔。ドアを開けろ、餌の準備をしろ、新鮮な水を用意しろ。朝のルーティンが頭の中に刻まれてるんだろうね、あいつの中では。私はまだ半分夢の中にいるのに、マロの一日はもう完全に始まっている。

布団から出ると、部屋の空気がひんやりしていた。春先の朝は、こういう微妙な寒さがある。裸足でフローリングを歩くと、足の裏に冷たさが染み込んでくる。マロは廊下を先導するように歩いていて、ときどき振り返って私がついてきてるか確認する。

キッチンに着くと、マロは自分の食器の前に座って待機した。

餌を出してやると、すぐに食べ始める。カリカリという小さな音が、静かな朝のキッチンに響く。私はやかんに水を入れて、コーヒーを淹れる準備をする。窓の外を見ると、空が少しずつ明るくなってきていた。

結局、毎朝こうやって起こされてる。アラームが鳴る前に、猫の都合で一日が始まる。最初の頃は腹が立ったけど、もう慣れた。

っていうか、たまにマロが起こしに来ない朝があると、逆に心配になる自分がいる。病気なんじゃないかとか、どこか具合が悪いんじゃないかとか。結局、起こされる方が安心するんだよね。変な話だけど。

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