本を開くと必ず現れる猫の、あの確信に満ちた顔

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ページをめくった瞬間、視界の端で何かが動いた。

私の読書タイムっていうのは、だいたい夜の10時過ぎなんだけど、この時間帯になると部屋の空気が少しひんやりして、デスクライトの明かりだけが本の上に落ちる感じがすごく好きで。コーヒーを淹れて、お気に入りのクッションに背中を預けて、さあこれから物語の世界に没入するぞって思った矢先に、やつは来る。うちの猫、名前はムギっていうんだけど、このタイミングを狙ってるとしか思えない。

別に普段は放っておいても平気な顔してるくせに。私がキッチンで料理してる時なんて、窓辺で丸まって爆睡してるのに、本を開いた途端に「あ、今だ」みたいな顔で近づいてくる。最初は偶然かと思ってたんだけど、もう確信犯だよね、これ。

ムギのやり方には段階がある。まず私の膝の横にちょこんと座って、じっと本を見つめるんだよ。本の内容に興味があるわけじゃなくて、明らかに「その手が動くたびにページがめくれる物体」として認識してる。で、私が無視してると、次は前足をそっと本の端に乗せてくる。爪は出さないけど、肉球のぷにっとした感触が紙の上に伝わってきて、集中力が一気に削られる。

この前読んでた推理小説、犯人が明かされる直前のページでムギが本の真ん中にどーんと座り込んで、文字が全部隠れたことがあった。しかもその時のムギの表情ときたら、「私が犯人です」みたいな堂々とした顔してるの。いや、お前じゃないから。お前は執事でも令嬢でもなく、ただの三毛猫だから。

そういえば去年の冬、友達が「集中力を高めるアロマキャンドル」っていうのをくれたんだけど、あれ全然効果なかったな。ラベンダーとユーカリの香りがするやつで、パッケージには「FOCUS BLOOM」って書いてあって、なんかおしゃれだったんだけど。火をつけた瞬間、ムギが興味津々で近づいてきて、ヒゲが焦げそうになって慌てて消した。それ以来使ってない。

読書を邪魔する猫の行動パターンって、ネットで調べると山ほど出てくるんだよね。本の上に座る、ページを押さえる、しおりを奪う。うちのムギは特にしおりへの執着がすごい。紙製のやつだと噛みちぎられるし、金属製のやつは床に落として夜中にカランカラン鳴らすし。今は仕方なく付箋を使ってるけど、それも時々剥がされてる。

でも一番厄介なのは、本を読んでる私の顔と本の間に、自分の顔を割り込ませてくる技。ムギの鼻先と私の鼻先が5センチくらいの距離になって、琥珀色の目でじっと見つめられると、もう読書どころじゃない。「なに?ごはん?さっきあげたよね?」って聞いても、ただゴロゴロ喉を鳴らすだけ。要求があるわけじゃなくて、ただ「かまって」っていう、それだけのために全力で邪魔してくる。

ある時、試しに電子書籍リーダーに切り替えてみたことがある。紙の本じゃなければ興味を示さないんじゃないかって思って。結果は惨敗。画面の上を歩いて勝手にページが進むし、タッチパネルが反応して変なところにハイライトが入るし、最終的にはリーダーの上で寝転がって画面が真っ暗になった。デジタルもアナログも関係ないらしい。

猫が邪魔をする理由について、動物行動学の本で読んだことがあるんだけど、飼い主が何かに集中してる時、猫は「自分以外のものに注意が向いている」ことに嫉妬するらしい。つまりムギにとって、本は私の注意を奪うライバルなんだよね。そう考えると、ちょっと愛おしい…わけないか。いや、やっぱりちょっと愛おしいかも。

最近は諦めて、読書の合間に「ムギタイム」を設けるようにしてる。10ページ読んだら5分だけ撫でる、みたいな。そうすると意外と満足するのか、そのあとは少し離れた場所で丸くなって寝てくれる。でもその寝顔を見てると、本の内容が頭に入ってこなくなるんだけどね。

結局のところ、読書と猫の共存って無理なのかもしれない。どっちかを選べって言われたら困るし、選ぶ気もないけど。

今夜もムギは私の膝の上で、開いたままの本のページに顎を乗せて寝息を立ててる。物語の続きは、また明日でいいか。

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