
まだ目を開けたくない時間帯に、何かが布団の上を歩いてくる気配がした。
ベッドの中でまどろんでいる時というのは、本当に微妙な時間で、完全に眠っているわけじゃないけど起きているわけでもない。あの、意識が水の中に浮いているみたいな感覚。そんな時に限って、うちの猫は絶対にやってくる。しかも、ただ通り過ぎるだけじゃなくて、わざわざ私の顔の近くまで来て、鼻先をくっつけてくるのだ。冷たくて湿った鼻。あれ、本当に目覚まし時計より確実に起こされる。
目を薄く開けると、至近距離に猫の顔がある。瞳孔が開いた丸い目で、じっとこちらを見つめている。可愛い瞳、とは言うけれど、朝6時にあの視線を向けられると、可愛いというより「何か企んでいるな」という気持ちになる。実際、企んでいる。ご飯のことしか考えていない。
私が無視して目を閉じ直すと、今度は前足で顔を触ってくる。ぽふぽふと、遠慮のない肉球アタック。爪は出していないから痛くはないけれど、執拗さがすごい。一度、二度、三度。リズムを刻むように、私の頬を叩き続ける。これ、完全に起こそうとしてやっている。寝たふりを続けていると、次は喉を鳴らし始める。ゴロゴロという振動が、布団越しに伝わってくる。
そういえば、前に飼っていた猫は全然起こしに来なかった。むしろ私より遅くまで寝ていたくらいで、休日の昼過ぎに起きると、まだ丸まって寝ていたりした。あれはあれで心配になったけど。
今の猫は違う。朝になると必ず来る。時計なんて見ていないはずなのに、だいたい同じ時間に起こしに来るのが不思議で仕方ない。体内時計というやつなのか、それとも外の明るさで判断しているのか。冬場、カーテンを閉め切っていても来るから、光じゃないのかもしれない。
ベッドの中は温かくて、外の空気は冷たい。11月の朝は特にそうで、布団から出るのが本当に辛い。でも猫は容赦しない。私が起きないと分かると、今度は布団の上に乗ってくる。そして、胸のあたりに座る。重い。うちの猫、見た目より重いのだ。5キロくらいあるんじゃないかと思う。その重さが、じわじわと息苦しさに変わっていく。
「わかった、わかったから」と言って、ようやく体を起こす。猫は満足そうに、ベッドから飛び降りて、ドアの前で待っている。尻尾をぴんと立てて。あの尻尾の角度、完全に「早く来い」と言っている。
キッチンに向かうと、猫は私の足元をくるくる回りながらついてくる。フードボウルの前で座り込んで、また見上げてくる。今度は期待の眼差し。さっきまでの執拗な起こし方はどこへやら、今は完全にお利口さんモードだ。
カリカリのフードを入れると、すぐに食べ始める。カリカリという音が、静かな朝のキッチンに響く。私はまだ半分眠いまま、冷蔵庫を開けて水を飲む。窓の外はまだ薄暗くて、遠くで新聞配達のバイクの音がする。
食べ終わった猫は、今度は窓辺に行って、外を眺め始める。もう私のことなんて興味がないみたいに。用が済んだら、あっさりしたものだ。
私はもう一度ベッドに戻ろうかと思ったけれど、一度起きてしまうと、なんとなく戻る気にもならなくて。結局、そのままコーヒーを淹れることにした。ドリッパーにペーパーフィルターをセットして、豆を挽く。ゴリゴリという手挽きミルの音。この音、朝に聞くと少しだけ目が覚める。
猫に起こされる朝は、正直言って迷惑だと思うこともある。でも、起こされなかったら起こされなかったで、きっと寂しいんだろうな、とも思う。矛盾しているけど、そういうものかもしれない。
窓の外が少しずつ明るくなってきた。猫はまだ窓辺にいて、じっと外を見ている。何を見ているのか、聞いても答えてくれないけど。

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