本を読もうとすると必ず現れる猫の、あの確信犯みたいな顔

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ページをめくると、膝の上に重みが乗る。

毎回このタイミングなんだよね。コーヒーを淹れて、ソファに座って、文庫本を開いて三行くらい読んだところで必ず来る。うちの猫は本が嫌いなのか、それとも私が本を読んでいる時間そのものが気に入らないのか。たぶん後者だと思うんだけど、その証拠に雑誌をパラパラめくってるだけの時は来ないんだよね。集中して読み始めた瞬間を狙ってくる。

最初は偶然だと思ってた。猫なんてそんなもんだろうって。

でもある日曜の昼下がり、推理小説のクライマックスにさしかかったところで、いつものように膝に飛び乗ってきて、さらに本の上に前足を置いた時に気づいた。この子、わかってやってる。犯人が明かされる三ページ前のところで、ページの真ん中あたりにピンポイントで肉球を置いてくるなんて、偶然じゃありえない。しかもその時の顔。上目遣いでこっちを見てくるあの表情は、完全に「ねえ、今いい?」って聞いてるくせに答えを求めてない顔なんだよね。

膝の上で丸まるならまだいい。本当に困るのは、本と顔の間に割り込んでくるパターン。

ちょうど視界を遮る位置に頭を持ってきて、ゴロゴロ喉を鳴らしながらこっちを見上げてくる。文字が読めないから、しかたなく本を持ち上げて猫の頭越しに読もうとするんだけど、そうすると今度は立ち上がって前足を私の胸に置いてくる。で、さらに顔を近づけてくる。もう読書どころじゃない。本を閉じるしかなくなる。そうすると満足そうに喉をゴロゴロ鳴らして、私の首元に頭を押し付けてくるんだよね。

そういえば去年の夏、友達が「うちの猫は本の上で寝るんだよね」って写真を見せてくれたことがあった。開いたページの上にどーんと寝そべってる茶トラの写真。かわいいなあと思ったけど、今思えばあれも同じ現象だったのかもしれない。本を読んでる飼い主の気を引くための、猫なりの作戦。「ブックマーク・キャット症候群」とか勝手に名前つけたくなるくらい、本好きな人なら一度は経験してるんじゃないかな。

試しに電子書籍リーダーで読んでみたこともある。

紙の本じゃなければ興味を示さないかもしれないと思って。結果は変わらなかった。むしろ悪化した。電子書籍リーダーの画面に直接手を置いてきて、タッチパネルが反応して勝手にページが進む。しかも何度も。諦めてタブレットに持ち替えたら、今度は画面の光に反応して手を伸ばしてくる。もう何がしたいのかわからない。

読書の時間帯を変えてみたこともあった。早朝五時半、猫がまだ寝てる時間を狙って起きて、キッチンで立ったまま本を読んだ。十分くらいは平和だった。窓の外はまだ薄暗くて、冷蔵庫のモーター音だけが聞こえる静かな時間。ページをめくる音さえ大きく感じるくらい。このまま一章読み終えられるかもと思った矢間、足元から「にゃあ」って声がした。見下ろすと、眠そうな顔でこっちを見上げてる。お前、なんで起きてんの。

猫を飼う前は、読書と猫のいる暮らしって相性がいいと思ってたんだよね。静かに本を読む横で、猫が丸まって寝てる。そんな穏やかな午後を想像してた。実際は真逆だった。

でも不思議なことに、最近は本を開く前に「今日はどのタイミングで来るかな」って考えてる自分がいる。猫が膝に乗ってくる前提で、途中で中断してもいい本を選ぶようになった。長編小説は諦めて、短編集とかエッセイとか。一話完結で読めるやつ。それでも集中して読みたい時はある。そういう時は猫を別の部屋に入れて、ドアを閉めて読む。すると廊下から「にゃーにゃー」って呼ぶ声が聞こえてきて、結局気になって集中できなくなるんだけど。

ある時、ふと気づいた。私が本を読んでる時の姿勢って、たぶん猫から見ると「膝の上が空いてる」状態なんだよね。

スマホをいじってる時は手が動いてるし、パソコンを使ってる時はキーボードがあるから乗れない。でも本を読んでる時は、膝の上に何もなくて、しかも動かない。猫にとっては絶好の場所なわけだ。つまり、邪魔をしてるんじゃなくて、単に最高の特等席を確保しに来てるだけ。そう考えると、ちょっと納得できる。納得できるけど、それでも読書は中断されるんだけどさ。

今も膝の上で丸まってる。さっきまで読んでた本は手の届かない位置に置いてある。取ろうとすると起きちゃうから、もう諦めた。窓の外では雨が降り始めてる。

猫の寝息と雨音だけが聞こえる午後。本は読めないけど、まあ、これはこれで…悪くないかもね。

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