猫に起こされる朝のまどろみ

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冬の朝、まだ陽の光が薄く窓辺に差し込む時間帯、ベッドの中で私はまどろんでいた。布団の温もりが心地よく、夢と現実の境界が曖昧になるあの瞬間。体はまだ眠りの余韻に包まれていて、意識だけがゆっくりと浮上しようとしている。そんな至福の時間に、ふと何かが動いた気配がした。

最初は気のせいかと思った。けれど次の瞬間、布団の上を小さな足音が近づいてくる。トントン、トントンと規則正しいリズム。ああ、また来たのかと思いながらも、目を開ける気力はまだ湧いてこない。そして予想通り、私の枕元で動きが止まった。

じっと見つめられているのがわかる。瞼を閉じたままでも、その視線の重みは感じ取れるものだ。猫というのは不思議な生き物で、人間が寝ているとわかっていても、じっと顔を覗き込んでくる。まるで「起きているかどうか確認しているのか」それとも「早く起きろと催促しているのか」その真意は永遠の謎だ。

しばらく我慢比べが続いた。私は起きたくない一心で、できるだけ規則正しい呼吸を続ける。猫の方は、じっと動かずこちらを観察している。その緊張感のある静寂が、ふいに破られた。小さな肉球が、私の頬にそっと触れたのだ。ぷにっとした柔らかな感触。冷たくもなく、温かくもない、絶妙な温度。そして次の瞬間、もう一度。今度は少し力を込めて、ぽんぽんと頬を叩く。

仕方なく薄く目を開けると、そこには予想通りの光景があった。丸い瞳がこちらをじっと見つめている。琥珀色に光るその瞳は、朝の薄明かりの中で神秘的な輝きを放っていた。可愛い瞳、と世間では形容するのだろうけれど、この状況下ではむしろ「容赦ない瞳」と呼びたくなる。

「まだ早いよ」と小さく呟いてみたが、猫は動じない。それどころか、私の呟きを「起きた」というサインと受け取ったらしく、さらに顔を近づけてきた。鼻先が触れるほどの距離。猫特有の、ほんのり甘いような独特の匂いがする。子どもの頃に実家で飼っていた猫も、同じような匂いがしたことを思い出した。あの頃は私も早起きで、猫よりも先に起きていたものだったのに。

諦めて上半身を起こすと、猫は満足そうに喉を鳴らし始めた。ゴロゴロという振動が、静かな朝の空気に溶け込んでいく。窓の外では、まだ街も眠っている時間帯。こんな早朝に起こされるのは正直困るけれど、この小さな生き物の前では抵抗する気力も失せてしまう。

ベッドから出ようとすると、猫は先回りするように布団の上を歩き、部屋の出口へと向かった。振り返ってこちらを見る仕草は、明らかに「早く来い」と言っている。まるで自分が主人で、私が従者であるかのような態度だ。実際、この家では猫の方が立場が上なのかもしれない。

キッチンに向かう廊下は、まだ冷たい空気が漂っていた。足元からひんやりとした感触が伝わってくる。猫は私の足元をすり抜けながら、先へ先へと進んでいく。その後ろ姿を見ながら、私はふと考えた。この猫は本当にお腹が空いているのだろうか、それとも単純に寂しかっただけなのだろうか。

キッチンに着いて、いつもの場所にある猫用の食器を手に取る。カリカリとした音を立てながらフードを入れると、猫は待ってましたとばかりに食べ始めた。その様子を見ていると、やはりお腹が空いていたのだと納得する。ただ、食べながらも時々こちらを振り返る仕草が、何とも言えず愛らしい。

コーヒーを淹れようと思い立ち、棚からお気に入りのブレンド「モーニングミスト」を取り出した。まだ眠気が残る頭に、カフェインの刺激が必要だった。お湯を沸かす音が、静かなキッチンに響く。猫は食事を終えたらしく、今度は窓辺に移動して外を眺めている。

カップにコーヒーを注ぎながら、私は小さく笑った。結局、起こされてしまったけれど、これはこれで悪くない朝だ。予定よりも早く目覚めた分、ゆっくりとした時間が流れている。急かされることもなく、静かに一日の始まりを感じられる。

窓の外では、少しずつ空が明るくなり始めていた。淡い青色が、徐々に白みを帯びていく。猫は相変わらず窓辺に座り、じっと外を見つめている。その横顔は、まるで何か深いことを考えているようにも見えるし、単にぼんやりしているだけのようにも見える。

温かいコーヒーを一口飲むと、ようやく体が目覚め始めた気がした。苦味と香りが口の中に広がり、眠気が少しずつ遠のいていく。猫に起こされるのは確かに予定外だったけれど、こうして静かな朝を過ごすのも、たまには良いものだ。

ベッドの中でまどろんでいた時間は終わってしまったけれど、代わりに得られた穏やかな朝の時間。猫は今、窓辺で丸くなって眠り始めている。起こしておいて自分は寝るのか、と心の中で軽くツッコミを入れつつも、その寝顔を見ていると文句を言う気も失せてしまう。結局のところ、私はこの小さな生き物に、完全に支配されているのかもしれない。

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