猫と過ごす、まったりとした食卓の時間

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朝の光が窓から差し込むと、私の一日は必ず小さな肉球の感触で始まる。ベッドの上を歩く柔らかな足音と、顔を覗き込むひげのくすぐったさ。我が家の猫、ミルクは毎朝このようにして私を起こしてくれる。時計を見ればまだ六時半。休日の朝はもう少し眠っていたいところだが、彼女の朝ごはんを待つ瞳を見れば、布団から出ないわけにはいかない。

猫と暮らすようになって三年が経つ。最初は一人暮らしの寂しさを紛らわすために迎えた小さな命だったが、今では彼女のいない生活など考えられない。キッチンに立つと、ミルクは私の足元をすり抜けながら、期待に満ちた鳴き声を上げる。彼女の食事の準備をしながら、私は自分のコーヒーを淹れる。この朝の儀式が、私たちの一日の始まりだ。

ミルクが食事を始めると、キッチンには静かな咀嚼音だけが響く。私はカウンターに腰掛けて、温かいコーヒーカップを両手で包む。窓の外では小鳥たちがさえずり、穏やかな朝の空気が部屋に流れ込んでくる。こんな何気ない瞬間が、実は一日の中で最も贅沢な時間なのかもしれない。

猫と私の関係は、言葉を交わさなくても成立する不思議なものだ。彼女は私の気分を敏感に察知する。仕事で疲れて帰った日には、そっと膝の上に乗ってきて、ゴロゴロと喉を鳴らす。その振動が心地よく、一日の疲れがゆっくりと溶けていく。逆に私が元気な日には、彼女も活発に動き回り、おもちゃで遊ぼうと誘ってくる。まるで鏡のように、お互いの感情が映し合うのだ。

週末の昼下がり、私はキッチンで簡単なランチを作る。今日はトマトソースのパスタにしようと決めて、玉ねぎを刻み始める。すると案の定、ミルクがキッチンカウンターに飛び乗ってきた。彼女は料理をする私を見るのが好きで、いつも安全な場所から監督するように座っている。「今日は猫用のご飯じゃないからね」と話しかけると、彼女は知らん顔で尻尾を揺らす。

トマトを炒める香りが部屋中に広がると、ミルクは興味深そうに鼻をひくひくさせる。猫は本来肉食動物だが、料理の香りには興味津々のようだ。もちろん人間の食事を与えることはないが、こうして一緒にキッチンにいる時間が、私にとっては何よりも楽しい。パスタが茹で上がり、ソースと絡める。シンプルだが、一人分の食事を丁寧に作ることが、自分を大切にすることだと気づいたのは、ミルクと暮らし始めてからだった。

ダイニングテーブルに料理を運び、椅子に座る。すぐにミルクが隣の椅子に飛び乗ってきて、丸くなる。彼女は私が食事をする間、いつもそこで眠るのだ。フォークでパスタを巻き取り、口に運ぶ。トマトの酸味とバジルの香りが口いっぱいに広がる。窓の外では風に揺れる木々の葉が、キラキラと光を反射している。

食事をしながら、ふと思う。一人暮らしだった頃の私は、食事をただの栄養補給としか考えていなかった。コンビニ弁当やカップ麺で済ませることも多く、テレビを見ながら無意識に口に運んでいた。しかし猫と暮らすようになり、生活にリズムが生まれた。ミルクの食事の時間を守るために、自然と私の食事時間も規則正しくなった。彼女のために新鮮な水を用意し、食器を清潔に保つうちに、自分の食事にも同じように気を配るようになった。

午後の陽射しが部屋を暖かく照らす中、食後のコーヒーを淹れる。ミルクは窓辺のお気に入りの場所に移動し、日向ぼっこを始めた。彼女の白い毛が光に透けて、まるで天使のように見える。私はソファに座り、本を開く。読書をする私の横で、ミルクは気持ちよさそうに目を細めている。時折ページをめくる音だけが、静かな部屋に響く。

夕方になると、私は夕食の準備を始める。今夜は鮭のムニエルと野菜のソテー、それにご飯と味噌汁。和食の献立だ。鮭を焼く香りに、ミルクが再びキッチンにやってくる。魚の匂いには特に反応が良い。「少しだけね」と言いながら、彼女用に小さく切った鮭の切れ身を用意する。もちろん味付けなしで、猫が食べても安全な部分だけだ。

夕食の時間も、朝と同じように穏やかだ。テーブルの上には温かい料理が並び、ミルクは私の足元で自分の特別なおやつを食べている。一日の終わりに、こうして一緒に食事の時間を過ごすことが、私たちの大切な習慣になっている。

食後、皿を洗いながら窓の外を見ると、空が茜色に染まっている。美しい夕焼けだ。ミルクを抱き上げて窓辺に立ち、一緒にその景色を眺める。彼女は私の腕の中で満足そうに喉を鳴らす。

猫と暮らす生活は、特別な出来事に満ちているわけではない。むしろ、毎日が同じようなルーティンの繰り返しだ。しかし、その何気ない日常の中に、かけがえのない幸せが隠れている。一緒に食事の時間を過ごし、同じ空間で呼吸を共にする。それだけで心が満たされる。

夜、ベッドに入ると、ミルクは私の枕元に丸くなる。彼女の寝息を聞きながら、今日一日を振り返る。朝のコーヒー、昼のパスタ、夕方の鮭。どれも特別な料理ではないけれど、ミルクと一緒に過ごした時間が、すべてを特別なものに変えてくれる。猫と私の、まったりとした日常。それは誰にも邪魔されない、私たちだけの宝物なのだ。

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