猫と読書、甘やかな攻防戦の日々

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休日の午後、お気に入りのソファに身を沈め、ようやく手に取った小説のページをめくる。静かな部屋に差し込む柔らかな日差し。淹れたてのコーヒーの香り。これ以上ない至福の読書時間が始まろうとしていた。そう、あの子が現れるまでは。

足音もなく近づいてきたのは、我が家の愛猫である。琥珀色の瞳をこちらに向けながら、まるで「何をしているの?」と問いかけるように首を傾げている。私は軽く微笑みかけて視線を本に戻した。物語の主人公がちょうど重要な決断を下そうとしている場面だ。集中しなければ。

しかし猫は諦めない。ソファの肘掛けに飛び乗ると、私の膝の上にある本を覗き込むように顔を近づけてくる。ページの上に影が落ち、活字が読みづらくなる。「ちょっと待ってね」と声をかけても、猫は意に介さない。それどころか、開いたページの上にそっと前足を乗せてきた。柔らかな肉球が、まさに今読もうとしていた行を隠している。

仕方なく本を少し持ち上げると、猫はそれを遊びの合図と受け取ったらしい。動く本を追いかけるように、もう片方の前足も伸ばしてくる。本の角を軽く叩き、まるでおもちゃのように扱い始めた。私は苦笑しながら、「これはおもちゃじゃないんだよ」と諭すが、猫の耳には届いていないようだ。

読書を続けようと再び本に目を落とすと、今度は私の腕に体を擦り付けてくる。喉を鳴らしながら、全身で甘えてくるその姿は、確かに愛おしい。つい手を伸ばして頭を撫でてやると、猫は満足そうに目を細める。しかしこれは罠だった。撫でる手を止めた途端、猫は再び本に興味を示し始めたのだ。

ページをめくろうとすると、素早く手を伸ばしてページを押さえる。本を膝の上で安定させようとすれば、その膝の上に乗ってくる。どう工夫しても、読書の邪魔をする猫の創意工夫には敵わない。挙句の果てには、開いたページの真ん中にどっかりと座り込み、「さあ、これでどうやって読むの?」とでも言いたげな表情でこちらを見上げてくる。

温かな猫の体温が本を通して伝わってくる。規則正しい呼吸のリズム。時折聞こえる小さな鳴き声。これらすべてが、私に「本より私を見て」と訴えかけているようだ。物語の続きが気になりながらも、この愛おしい妨害者を無視することはできない。

本を閉じて脇に置くと、猫は勝利を確信したように私の胸元に顔を埋めてくる。全身で喜びを表現するその姿に、私の心は完全に降参してしまう。読書は後回しでいい。今はこの温かな命と向き合う時間を大切にしよう。そう思いながら猫を抱き上げると、満足そうな喉の音がさらに大きくなった。

しかし猫との蜜月は長くは続かない。十分ほど撫で続けていると、突然飽きたように私の膝から飛び降り、窓辺へと歩いていく。そして何事もなかったかのように毛づくろいを始める。その気まぐれさに呆れながらも、私は再び本を手に取った。

ようやく読書を再開できると安堵したのも束の間、数ページ進んだところで再び猫が戻ってくる。今度は別のアプローチだ。本を直接邪魔するのではなく、私の視界に入る位置で大きく伸びをし、可愛らしい仕草を披露する。「見て見て」という無言の主張が痛いほど伝わってくる。

こうした攻防は、読書時間が終わるまで延々と続く。集中して読めるのは、猫が昼寝をしている間か、他の遊びに夢中になっている僅かな時間だけだ。それでも私は猫を責める気にはなれない。なぜなら、この邪魔をする猫こそが、日常に彩りを与えてくれる大切な存在だからだ。

本の中の物語も素晴らしいが、目の前で繰り広げられる猫との小さなドラマもまた、かけがえのない物語なのだ。読書する私と邪魔をする猫。この関係性は、きっとこれからも変わることはないだろう。そしてそれでいいのだと、私は心から思っている。

今日も本を開けば、きっとあの子がやってくる。柔らかな足音と共に、私の読書時間に乱入してくる。それは予定調和の日常であり、私が密かに楽しみにしている時間でもある。本と猫、どちらも私の人生に欠かせない宝物だ。だからこそ、この甘やかな攻防戦は、これからも続いていくのだろう。愛おしい猫との、終わりのない読書時間の物語として。

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