窓を打つ雨音が静かな午後の部屋に響いている。私の膝の上で丸くなっているミィは、時折まどろみながらも、外の景色に目を向けている。灰色の空から降り注ぐ雨は、窓ガラスを伝って流れ落ち、まるで自然が描く水彩画のような模様を作り出している。
ミィと出会ったのも、こんな雨の日だった。2年前の秋、通勤途中の路地裏で震えていた子猫を見つけた時のことを、今でも鮮明に覚えている。濡れた毛並みがぴったりと体に張り付き、か細い鳴き声で助けを求めていた彼女を見過ごすことはできなかった。その時の直感が、今の穏やかな日常につながっているのだと思うと、不思議な縁を感じずにはいられない。
窓の外では、雨に濡れた木々が風に揺れている。落ち葉が舞い、雨粒と一緒に地面へと降り注ぐ様子を、ミィは真剣なまなざしで追いかけている。時折、通り過ぎる車のヘッドライトが雨粒を輝かせ、その光景にミィの瞳が反射して、琥珀色の目が一層美しく輝く。
私は無意識のうちにミィの背中を撫でている。柔らかな毛並みの感触と、小さな体から伝わる温もりが心地よい。ミィは時折、喉を鳴らして満足げな声を上げる。この瞬間、私たちは言葉を交わすことなく、同じ景色を共有している。雨の音が奏でる自然の音楽に耳を傾けながら、静かな時間が流れていく。
外では小鳥が雨宿りをしている様子も見える。軒下で羽を震わせる姿に、ミィの耳がピクリと動く。しかし、今日の彼女は普段のような狩猟本能を見せることはない。ただ穏やかに、雨の風景を眺めているだけだ。かつて野生を知っていた彼女が、今では家での安らかな生活に馴染んでいることを実感する瞬間だ。
時折、遠くで鳴る雷鳴に、ミィの体が少し強張る。そんな時は優しく頭を撫でて安心させる。彼女は私の手のぬくもりを感じると、すぐにリラックスした態勢に戻る。この何気ない信頼関係が、日々の生活の中で少しずつ築き上げられてきたのだと実感する。
雨は次第に強さを増してきた。窓ガラスを伝う雨粒の軌跡が、より鮮明になっていく。外の世界は水のカーテンに覆われ、遠くの景色がぼんやりと霞んでいく。この室内の静けさと、外の激しい雨の対比が、より一層この時間を特別なものに感じさせる。
ミィは私の膝の上で体勢を変え、より窓に近づこうとする。私は彼女の好きなようにさせておく。彼女の好奇心旺盛な性格は、今でも健在だ。時には窓辺に置いた観葉植物の葉を追いかけたり、カーテンの揺れに反応したりする彼女を見ていると、心が温かくなる。
雨の日は特別な時間をもたらしてくれる。普段は活発なミィも、こんな日はどこか物思いにふける表情を見せる。それは私たち人間と同じように、天候が彼女の気分にも影響を与えているからなのかもしれない。
窓の外で起こる小さな変化を、私たちは一緒に観察している。通り過ぎる人々の傘の色とりどり、水たまりに映る街灯の光、風に揺れる街路樹の枝々。これらの光景は、雨の日ならではの特別な風景画となって、私たちの目に映る。
時計の針はゆっくりと進んでいく。しかし、この静かな時間の流れは決して退屈なものではない。むしろ、日常の喧騒から離れ、自然のリズムに身を委ねることができる貴重な時間だと感じている。ミィの存在が、この穏やかな時間をより一層特別なものにしてくれている。
雨は私たちに、立ち止まって考える時間を与えてくれる。忙しい日々の中で見過ごしてしまいがちな、小さな幸せや気づきを与えてくれる。ミィと過ごすこの静かな時間は、そんな気づきの一つだ。
窓の外では、雨雲の合間から微かに光が差し始めている。雨は依然として降り続いているものの、その強さは少しずつ和らいできた。ミィの耳が再びピクリと動く。どこかで鳴いている野良猫の声でも聞こえたのだろうか。
私は彼女の頭を優しく撫でながら、この平穏な時間が続くことを願う。人生には様々な天候があるように、日々の暮らしにも晴れの日もあれば雨の日もある。しかし、こうしてミィと共に過ごす時間は、どんな天候でも特別な意味を持つ。
雨は次第に小降りになり、空の色も少しずつ明るさを取り戻してきた。しかし、ミィは依然として窓の外を見つめ続けている。彼女の瞳に映る外の世界は、私には見えない何かを映し出しているのかもしれない。
この静かな雨の午後は、私とミィにとって何気ない日常の一コマだ。しかし、こうして共に過ごす時間の積み重ねが、かけがえのない思い出となっていく。窓の外の雨は、私たちの絆をより一層深めてくれる自然からの贈り物なのかもしれない。
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