窓を打つ雨音が静かな午後の部屋に響いている。私の膝の上で丸くなっていたミィが、ふと顔を上げて窓の外を見つめ始めた。その瞳には、ガラス越しに流れる雨粒の軌跡が映り込んでいる。
今日は一日中降り続く雨。どんよりとした空から降り注ぐ雨粒が、窓ガラスを伝って流れ落ちていく様子は、まるで天然のアートのようだ。私とミィは、この雨の織りなす模様を一緒に眺めている。彼女の尻尾がゆっくりと左右に揺れているのを見ると、この静かな時間を楽しんでいるのは私だけではないようだ。
ミィがうちにやってきたのは3年前の夏のこと。当時はまだ幼い野良猫で、近所の公園でよく見かけていた。最初は警戒心が強く、私が近づこうとすると素早く姿を消してしまっていたが、毎日同じ時間に餌を置いていくうちに、少しずつ距離が縮まっていった。
そして、ある雨の日。いつものように公園に行くと、ずぶ濡れになって震えているミィを見つけた。ためらうことなく抱き上げると、彼女は不思議なことに抵抗せず、むしろ私の胸に身を寄せてきた。それ以来、彼女は私の家族となった。
窓の外では、雨に濡れた木々が風に揺れている。落ち葉が舞い、雨粒と一緒に地面へと降り注いでいく。ミィの耳がピクリと動き、その視線は落ち葉を追いかけている。時折、通り過ぎる車のタイヤが水しぶきを上げ、その音に反応して彼女の背筋がピンと伸びる。
私は無意識のうちに、ミィの背中を優しくなでている。彼女の毛並みは柔らかく、手のひらに心地よい温もりを感じる。窓の外の世界は冷たい雨に濡れているのに、この部屋の中は穏やかな温かさに包まれている。
雨の日は特別な時間だ。普段は活発なミィも、こんな日は静かに窓辺で過ごすことを好む。私も仕事や家事の手を止めて、彼女と一緒にこの瞬間を共有する。雨音をBGMに、私たちは言葉を交わすことなく、ただそこにいる。
窓の外で小鳥が雨宿りをしているのを見つけると、ミィの尻尾が急に動きを止める。その姿勢は狩りの本能を思い起こさせるが、今はガラス越しの光景。小鳥たちも安全な場所にいることを知っているのか、彼女はすぐにリラックスした体勢に戻る。
雨粒が作る窓ガラスの模様は、まるで万華鏡のように刻々と変化していく。大きな雨粒が流れ落ちる跡に、smaller ones が追いかけるように続く。ミィの目は、その一つ一つの動きを追っているようだ。時折、遠くで鳴る雷鳴に耳を立てることもあるが、怖がる様子はない。
この3年間、彼女は私の生活に多くの変化をもたらした。朝は彼女の甘えるような鳴き声で目覚め、夜は温かい毛玉が隣で寝息を立てている。休日の雨の日には、こうして一緒に窓辺で時を過ごす。何気ない日常の中に、かけがえのない幸せを見つけられるようになった。
外の景色が少しずつ暗くなってきている。日が傾き始め、街灯が早めに点灯し始めた。その光が雨に反射して、幻想的な雰囲気を作り出している。ミィは私の膝の上で体勢を変え、より快適な位置を探している。
この瞬間、時計の針がゆっくりと進んでいくように感じる。雨は依然として降り続いているが、その音は心地よい子守唄のようだ。ミィの呼吸が規則正しくなり、まどろみ始めている様子が伝わってくる。私も深いため息をつきながら、この穏やかな時間に身を委ねる。
窓の外では、傘を差して急ぎ足で通り過ぎる人々の姿が見える。みな、雨から逃れようと足早だ。でも私たちは違う。この雨の音と共に、静かな時間を楽しんでいる。雨の日は特別な贈り物をしてくれる。それは、忙しない日常から一歩離れて、ゆっくりと呼吸する時間。
ミィが私の手の下でゴロゴロと喉を鳴らし始めた。その音は雨音と不思議なハーモニーを奏でている。彼女の満足げな表情を見ていると、私も自然と笑みがこぼれる。人と猫。種は違えど、こうして同じ時間、同じ空間を共有できることの素晴らしさを感じる。
雨は、いつしか細かな霧雨へと変わっていった。空の色も、わずかながら明るさを取り戻しつつある。でも私たちは、まだしばらくここにいよう。この特別な時間が終わるまで、ただ静かに寄り添いながら。
外の世界は常に動いている。人々は忙しく行き交い、車は走り、時は刻々と過ぎていく。でも、この窓辺の小さな空間では、時間がゆっくりと流れている。それは私とミィだけの、特別な時間の流れ方だ。
やがて雨は上がるだろう。そして私たちは、また日常の時間の中に戻っていく。でも、こうして過ごした静かな雨の午後は、確かな記憶として心に刻まれる。それは、人と猫が紡ぐ小さな物語の一ページ。今日もまた、新しい思い出が加わった。
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