猫の目覚まし時計

冬の朝の柔らかな光が、カーテンの隙間からそっと差し込んでくる。休日の贅沢な朝寝坊を楽しもうと、私は暖かな布団の中でまどろんでいた。季節は冬の終わりに近づいていたが、まだまだ外は寒く、ベッドから出るのが億劫な季節が続いていた。

そんな穏やかな朝の静寂を破ったのは、ふわりと布団の上に降り立った小さな足音だった。我が家の猫のミルクである。彼女は毎朝、決まった時間になると私を起こしに来る。まるで目覚まし時計のように正確で、しかも普通の目覚まし時計とは違い、スヌーズボタンは存在しない。

ミルクは真っ白な毛並みに、青みがかった瞳を持つ美しい猫だ。その可愛らしい瞳で私をじっと見つめながら、小さな肉球で私の腕や胸を軽くトントンと叩き始める。「起きて、起きてよ」と言わんばかりのその仕草は、どれほど眠くても無視することができない魔力を持っている。

布団の中で身体を丸めると、ミルクは私の顔の近くまで顔を寄せてきた。温かい吐息が頬にかかり、ヒゲがそっと肌をくすぐる。彼女の甘えるような鳴き声は、まるで小さな子供のようだ。「おはよう」と私が声をかけると、ミルクは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

しかし、まだ布団から出る気はない私は、そっとミルクを抱き寄せて一緒に横になることにした。最初は驚いたように身体を固くしていたミルクだったが、すぐにリラックスして私の腕の中で丸くなった。彼女の柔らかな毛並みが頬に触れ、心地よい温もりが伝わってくる。

窓の外では小鳥たちが朝の歌を歌い始め、街が少しずつ目覚めていく音が聞こえてくる。ミルクの規則正しい寝息を聞きながら、私は彼女が我が家にやってきた日のことを思い出していた。保護猫カフェで出会った時、この可愛い瞳に一目で心を奪われたのだ。

あの日以来、私の生活は大きく変わった。朝型の生活になり、規則正しい食事の時間が定着し、帰宅が遅くなりそうな時は自然と早めに切り上げるようになった。それは全て、家で待っているミルクのためだった。彼女は私の生活に秩序をもたらし、そして何より、かけがえのない癒しを与えてくれている。

ベッドの中で微睡んでいると、ミルクが体勢を変えて私の胸の上に移動してきた。その重みは心地よく、まるで小さな暖房器具のように温かい。彼女の尻尾が時折私の腕をなでるように揺れ、その度に幸せな気持ちが込み上げてくる。

しかし、この穏やかな時間もそう長くは続かない。そろそろミルクのご飯の時間が近づいているのだ。彼女は再び私の顔を覗き込み、今度は少し強めに肉球で私の腕を叩き始めた。「わかったわかった」と笑いながら、私はようやく重い腰を上げることにした。

ベッドから抜け出す時、冷たい空気が私を包み込む。しかし、先回りして廊下まで走っていくミルクの姿を見ていると、寒さも気にならなくなる。キッチンまでミルクについていくと、彼女は自分の食器の前で待機していた。その姿は毎朝見ているはずなのに、いつも新鮮な可愛らしさがある。

朝食の準備をしながら、窓の外を見ると、今日は晴れになりそうだ。日差しが徐々に強くなり、部屋の中を明るく照らしている。ミルクは食事を終えると、日向ぼっこスポットである窓際の棚に飛び乗り、気持ちよさそうに目を細めている。

この日課とも言える朝の光景は、私の一日の始まりに欠かせないものとなっている。たとえ休日でも、ミルクのおかげで朝からしっかりと活動することができる。彼女は私にとって、単なるペットではなく、生活のリズムを整えてくれる大切なパートナーなのだ。

時には「もう少し寝かせてくれれば」と思うこともある。しかし、ミルクの可愛い瞳に見つめられると、そんな贅沢な願いも霧散してしまう。彼女との暮らしは、私に規則正しい生活と、何より毎日の小さな幸せを教えてくれた。

猫と暮らすということは、時として自分の意思とは関係なく生活が変わることを意味する。でも、それは決して悪いことではない。むしろ、私たちの生活をより豊かに、より充実したものにしてくれるのだ。ミルクとの朝の時間は、そんな幸せな気づきを毎日もたらしてくれる特別な時間となっている。

今日も一日が始まる。窓際で毛づくろいを始めたミルクを見ながら、私はコーヒーを淹れ始めた。彼女の存在が、何気ない日常に温かな色を添えてくれている。そう、私の朝は、可愛い猫の目覚まし時計によって、最高のスタートを切るのだ。