
朝の光がカーテンの隙間からそっと差し込んでくる、あの心地よい時間。まだ夢と現実の境界線が曖昧で、温かな布団の中で身体が少しずつ目覚めていく瞬間は、一日の中で最も贅沢な時間かもしれません。そんな至福のまどろみの時間に、私には毎朝訪れる小さな訪問者がいます。
ふわりと布団の上に何かが乗る感覚。最初は夢の続きかと思うほど軽やかな重み。けれどもそれは確かな存在感を持って、私の意識を優しく現実へと引き戻していきます。薄く目を開けると、そこには予想通りの光景が広がっています。我が家の愛猫が、私の枕元でじっとこちらを見つめているのです。
猫に起こされる朝は、目覚まし時計のアラームで起きる朝とはまったく違う質感を持っています。機械的な音で無理やり引き戻されるのではなく、生きている温もりによって自然と意識が浮上してくる感覚。それは強制ではなく、招待のようなものです。「そろそろ起きる時間ですよ」という無言のメッセージが、柔らかな肉球を通して伝わってくるようです。
ベッドの中で横たわったまま、私は猫の様子を観察します。彼女は私が目を覚ますのを辛抱強く待っています。時折、小さな鳴き声を漏らしながら、前足で布団を軽く押してみたり、私の顔の近くに自分の顔を近づけてみたり。その仕草のひとつひとつが、言葉以上に雄弁に何かを語りかけてきます。朝ごはんが欲しいのか、ただ一緒にいたいだけなのか、それとも単純に遊んでほしいのか。猫の気持ちを正確に読み取ることは難しいけれど、その曖昧さこそが猫との暮らしの魅力なのかもしれません。
可愛い瞳がこちらをじっと見つめています。琥珀色に輝くその瞳には、朝の光が反射してキラキラと輝いています。猫の目は本当に不思議です。時には甘えるように柔らかく、時には何かを要求するように鋭く、そして時には何も考えていないような無垢な表情を見せます。この瞬間、彼女の瞳は「早く起きて」と「でも急がなくてもいいよ」という相反するメッセージを同時に発しているように見えます。
私はゆっくりと手を伸ばして、猫の頭を撫でてみます。するとゴロゴロという喉を鳴らす音が聞こえてきます。この音もまた、朝の目覚めを特別なものにしてくれる要素のひとつです。機械では決して再現できない、生命の温もりを感じさせる振動。手のひらを通して伝わってくるその振動は、まるで小さなエンジンが作動しているかのようで、思わず微笑んでしまいます。
ベッドの中の温もりと、猫の体温が混ざり合って、この空間全体が心地よい温度に包まれています。外の世界はまだ少し冷たいかもしれないけれど、ここは完璧に守られた小さな楽園です。猫は私の腕の中に収まるように身体の位置を調整し、丸くなって落ち着きます。もう少しだけ、この時間を楽しんでもいいかもしれない。そんな許可を猫からもらったような気がして、私は再び目を閉じます。
けれども完全に眠りに落ちることはありません。猫の存在を感じながら、半分目覚めた状態で横たわっている時間は、瞑想にも似た静けさがあります。思考は穏やかに流れ、昨日の出来事や今日の予定が、焦りや不安を伴わずに意識を通り過ぎていきます。猫の規則正しい呼吸のリズムが、私の呼吸とシンクロしていくような感覚さえあります。
やがて猫は再び動き始めます。今度は私の顔の近くまで来て、小さな鼻を私の頬に押し付けてきます。猫特有の甘い匂いと、少しくすぐったい感触。これが彼女なりの「もう本当に起きる時間だよ」というサインなのかもしれません。私はついに観念して、ゆっくりと上半身を起こします。猫は満足そうに私を見つめ、ベッドから飛び降りて部屋の出口へと向かいます。振り返って私を確認し、「ついてきて」とでも言いたげな表情を見せます。
こうして私の一日は始まります。猫に起こされる朝は、確かに自分のペースで起きる朝よりも少し早いかもしれません。でも、この小さな命とともに目覚める喜びは、何物にも代えがたいものです。機械的に時間に追われて起きるのではなく、大切な誰かとの関係性の中で自然と目覚めていく。それは人間らしい、とても豊かな朝の迎え方なのではないでしょうか。
ベッドから出て、猫の後をついていきながら、私は今日も一日が始まることに感謝します。可愛い瞳で見つめられ、柔らかな肉球で起こされる朝。それは小さな幸せの積み重ねであり、日常の中にある特別な瞬間です。猫との暮らしは、こうした何気ない時間の中にこそ、本当の喜びが隠されているのだと教えてくれます。


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