窓辺から差し込む柔らかな陽光に、私の愛猫モモがまどろんでいる。茶トラの毛並みが、まるで溶けたキャラメルのように輝いている様子を眺めながら、私は今日の夕食の支度を始めた。モモと暮らし始めて3年が経つ。一人暮らしだった私の生活は、彼女の存在によって確実に豊かになった。
キッチンに立つと、すぐさまモモが目を覚まし、私の足元にすり寄ってくる。包丁でまな板を叩く音が響くたびに、期待に満ちた瞳で見上げてくる姿が愛らしい。以前は料理をすることが少なかった私だが、モモと暮らすようになってから、なるべく手作りの食事を心がけるようになった。
「ごはんの時間まで、もう少し待っていてね」と声をかけながら、今日のメニューを作り始める。鮭のムニエル、ほうれん草のお浸し、味噌汁。シンプルだけれど、心が温まる献立だ。モモの食事も、獣医さんに教えてもらったレシピで手作りしている。良質なタンパク質とビタミンを含んだ食材を、彼女の体調に合わせて調理するのが日課となった。
包丁を動かしていると、時折モモが立ち上がって前足で私のズボンを引っ張る。「もうすぐだからね」と言いながら、小さな器に刻んだ鮭の端材を入れてあげる。喜んで食べる姿を見ていると、私も自然と笑みがこぼれる。
食事の準備をしながら、モモと出会った日のことを思い出す。雨の降る夜、段ボール箱の中で震えていた子猫を見つけた時、迷わず家に連れて帰った。当時は猫の飼い方も分からず、戸惑うことばかりだった。でも、モモは私の不器用な世話を素直に受け入れてくれた。
今では、私の生活リズムはすっかりモモ中心になっている。朝は彼女の甘えた鳴き声で目覚め、夜は一緒にソファでテレビを見る。休日は窓辺で日向ぼっこをしながら、本を読んだり編み物をしたりする。そんな穏やかな時間の中で、料理をすることが私の大切な日課となった。
鮭がこんがりと焼けてきた香りに、モモの鼻先が動く。台所に立つ私の周りを、待ちきれない様子でくるくると回る姿が微笑ましい。以前は外食や惣菜で済ませがちだった食事も、今では自分で作ることに喜びを感じている。モモのおかげで、食事を作る時間が特別な意味を持つようになった。
料理が完成に近づくと、モモの待ちきれない様子がより一層強まる。私の動きを目で追いながら、時折小さな鳴き声を上げる。彼女の食事用の器に、丁寧に作った手作りフードを盛り付ける。人間用の食事と同じように、見た目にも気を配る。これは私なりの愛情表現かもしれない。
食卓に向かうと、モモも自分の器の前に座る。「いただきます」という私の声に合わせるように、彼女も食事を始める。静かな部屋に、二つの食事の音が響く。この何気ない瞬間が、私にとってはかけがえのない幸せな時間となっている。
モモと一緒に食事をする中で、私は食べることの大切さを改めて実感している。栄養を摂るだけでなく、作る過程や食べる時間を大切にすることで、日々の生活がより豊かになっていく。モモの存在が、そんな気づきを私にもたらしてくれた。
食事が終わると、モモは満足そうに毛づくろいを始める。私も食器を洗いながら、今日一日を振り返る。朝の散歩で見つけた新しい花、仕事で達成できたこと、そして今このように穏やかな夕食の時間を過ごせていることへの感謝。
キッチンの窓からは、夕暮れの空が見える。オレンジ色に染まった雲の間から、最後の陽光が差し込んでくる。モモは再び窓辺の定位置に戻り、幸せそうに目を細めている。私も一日の疲れを癒すように、お気に入りの椅子に座る。
この3年間、モモと過ごす時間は私の生活に大きな変化をもたらした。単なるペットとしてではなく、家族として共に暮らす中で、私は多くのことを学んだ。特に食事に関する考え方は大きく変わった。手作りの温かい食事を用意することは、相手を思いやる気持ちの表現でもある。
夜が更けていく中、モモは私の膝の上で丸くなる。その温もりを感じながら、明日の献立を考える。季節の食材を使った料理、モモの好みに合わせた手作りフード。二人の食卓をより豊かにするアイデアが、次々と浮かんでくる。
こうして毎日の食事の時間は、私とモモにとって特別な意味を持つようになった。料理を作り、共に食べる。そんな当たり前の日常の中に、かけがえのない幸せが詰まっている。モモと出会えたことで、私の人生はより彩り豊かになった。そして、これからも二人で穏やかな食卓の時間を重ねていきたいと思う。
窓の外では星が瞬き始め、静かな夜の訪れを告げている。モモの寝息を聞きながら、私は明日もまた、愛情を込めた食事を作ろうと心に決める。猫と人、異なる種であっても、食事を通じて確かに繋がっている。それは私たちの大切な絆となっているのだ。
コメント