猫と暮らす日々に寄り添う、小さな体調管理の話

Uncategorized

ALT

猫を迎えた最初の春、私は彼女の体調変化にまったく気づけなかった。それまで犬しか飼ったことがなく、猫という生き物がどれほど我慢強く、どれほど静かに不調を隠すものか、知らなかったのだ。ある朝、いつもより水を飲む回数が増えていることに気づいたのは、たまたまリモートワークで一日中家にいたからだった。キッチンの蛇口の下でじっと待つ仕草、それを三度も繰り返す姿を見て、ようやく「何かおかしい」と感じた。動物病院で告げられたのは初期の腎機能低下。幸い早期発見だったため大事には至らなかったが、あのとき気づかなければと思うと今でも胸が冷える。

猫の体調管理は、犬のそれとはまったく異なる繊細さを要求される。彼らは痛みや不快感を表に出さない。野生の名残なのか、弱みを見せることを本能的に避けるのだ。だからこそ、飼い主は日常のわずかな変化を見逃さない観察眼を養う必要がある。毎日の食事量、水を飲む頻度、トイレの回数と状態。これらは単なるルーティンではなく、彼らの健康を映し出す鏡なのだと、今ならわかる。私が使っているのは「ネコログ」という手帳アプリで、毎日の記録を簡単につけられるようにしている。数字で見ると、変化は驚くほど明確になる。

食事に関しては、量よりも質と食べ方に注目すべきだと獣医師に教わった。猫は気まぐれな生き物だと思われがちだが、実は彼らなりの理由がある。いつものフードを残すのは、口内炎や歯の痛みが原因かもしれない。急に食欲が増したなら、甲状腺機能亢進症や糖尿病の可能性もある。我が家の猫は夏になると食が細くなるのだが、これは暑さによる代謝の変化が影響しているらしい。そこで、夕方の涼しい時間帯に食事を出すようにしたところ、しっかり完食するようになった。ちなみに、フードボウルを新しいものに変えた初日、彼女はボウルの縁を前足でカリカリと引っ掻き続け、まるで「これ、前のやつと違うんだけど?」と抗議しているようだった。結局そのまま食べたのだけれど。

動きの観察もまた重要だ。猫は本来、優雅で無駄のない動きをする生き物である。ジャンプの着地が乱れる、高い場所に上がらなくなる、グルーミングの頻度が減る。これらはすべて、関節の痛みや筋力の低下を示唆している可能性がある。私の猫は昨年の秋、キャットタワーの最上段に上がる回数が減った。最初は「飽きたのかな」と思っていたが、よく見ると後ろ足の動きがぎこちない。病院で診てもらうと、軽度の関節炎が見つかった。サプリメントと運動療法で今は回復したが、あのとき「ただの老化」で片付けていたらと思うとぞっとする。

猫の体調管理で最も難しいのは、彼らが言葉を話せないという当たり前の事実に向き合うことだ。私たちにできるのは、観察し、記録し、小さな変化に敏感であり続けることだけ。それは時に神経質に思えるかもしれないが、彼らの命を預かる者としての責任でもある。子どもの頃、祖母が飼っていた三毛猫が突然亡くなったことがある。前日まで普通に見えたのに、朝になったら冷たくなっていた。祖母は「猫はそういうもの」と言ったが、今の知識があれば何か気づけたかもしれないと思う。

季節の変わり目は特に注意が必要だ。梅雨時の湿度、真夏の暑さ、冬の乾燥。それぞれが猫の体調に影響を及ぼす。我が家では、湿度計と温度計をリビングに設置し、常に快適な環境を保つよう心がけている。エアコンの風が直接当たらない場所に、お気に入りの毛布を置いてやると、彼女は満足そうに丸くなる。その寝顔を見ていると、この小さな命を守れているという実感が、静かに胸を満たしていく。

猫と暮らすということは、彼らの沈黙に耳を澄ますことなのかもしれない。言葉にならないサインを読み取り、小さな変化を見逃さず、日々の積み重ねの中で健康を守る。それは決して難しいことではなく、ただ丁寧に、愛情を持って向き合うことなのだと、今は思える。窓辺で日向ぼっこをする彼女の横顔を見ながら、今日もまた、いつもと変わらない一日であることに感謝する。

コメント

タイトルとURLをコピーしました