
猫を飼い始めてから、休日の過ごし方が変わった。
正確に言うと、変わったというより「動けなくなった」という方が近いかもしれない。膝の上に乗ってくるタイミングが絶妙すぎて、トイレに行きたくても立ち上がれない。スマホは手の届かないテーブルの上。リモコンも遠い。でも、これが意外と悪くないんだよね。何もできない状態って、現代人にとっては贅沢なのかもしれない。
うちの猫は雑種の三毛で、名前はまだちゃんと決まっていない。「ミーちゃん」って呼んだり「おい」って呼んだり、その日の気分で変わる。去年の11月に保護猫カフェから引き取ってきたんだけど、最初の一週間はずっとベッドの下に隠れていて、ご飯も夜中にこっそり食べてた。それが今では、私が朝ごはんを食べていると必ず横に座って、じっと見つめてくる。
人間の食べ物はあげちゃいけないって分かってるんだけど、あの視線に耐えられる人間がいるだろうか。
食事の時間が一番面倒くさい。猫用のウェットフードを開けると、どこにいても一瞬で飛んでくる。音で分かるらしい。缶詰を開ける「プシュッ」って音に反応して、キッチンまで全力疾走。でも、いざ皿に盛ってあげると、匂いを嗅ぐだけ嗅いで、プイッと行っちゃうこともある。「え、今のなに?」って毎回思う。結局30分後くらいに戻ってきて、何事もなかったように食べ始めるんだけど。
そういえば、この前スーパーで「キャットデリ」っていう新しいブランドのフードを見つけて買ってみたんだけど、全然食べなかった。パッケージには「厳選素材」とか「食いつき抜群」とか書いてあったのに。人間の食べ物でも同じだよね。高級レストランより、慣れ親しんだ定食屋の方が美味しく感じることもある。
午後3時くらいになると、リビングに差し込む日差しが絶妙な角度になる。猫はその光を追いかけるように移動して、最終的にはカーペットの上で伸びきって寝てる。お腹を上に向けて、前足も後ろ足も投げ出して。無防備すぎて笑える。私もその隣に座って、本を読んだり、ぼーっとしたり。たまに猫のお腹に顔を埋めると、日向の匂いがする。洗濯物を取り込んだ時のあの匂い。
昔、実家で犬を飼っていた時期があって、散歩が日課だった。朝晩、雨の日も風の日も、必ず外に出なきゃいけない。それはそれで楽しかったけど、猫との生活はもっと「何もしない」ことが許される感じがする。猫は勝手に遊んで、勝手に寝て、勝手に起きて、たまに甘えてくる。そのくらいの距離感が、今の自分には合ってるのかもしれない…だけど。
夕方になると、猫が急に走り出す時間がある。いわゆる「運動会」ってやつ。理由は誰にも分からない。突然スイッチが入って、部屋中を駆け回る。カーテンによじ登ったり、ソファの背もたれから飛び降りたり。10分くらい暴れまくって、急に止まる。そして何事もなかったように毛づくろいを始める。
その姿を見ながら、私も夕飯の準備を始める。冷蔵庫を開けると、キャベツと豚肉と卵があった。とりあえずお好み焼きでいいか。フライパンを火にかけて、生地を混ぜて。キャベツを切る音、油が温まる音、猫が水を飲む音。キッチンに立っていると、生活してるなって実感する。
猫と暮らし始めて一番変わったのは、家にいる時間が増えたことかもしれない。前は休日になると、とりあえず外に出なきゃって思ってた。カフェに行ったり、映画を観に行ったり。でも今は、家にいることが苦痛じゃない。むしろ、猫が窓の外を眺めている姿を見ているだけで、時間が過ぎていく。
夜の9時を過ぎると、猫は私の膝の上に乗ってくる。体温が伝わってきて、小さな寝息が聞こえる。テレビをつけても、本を読んでも、猫は動かない。重いし、足は痺れるし、正直しんどい。
でも、どこにも行きたくないって思う。このまま朝まで、いや、ずっとこうしていたいとは思わないけど、今この瞬間は、ここにいたい。

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