
うちに猫が来たのは、確か梅雨の終わりかけだった。
最初の一週間は正直、何を見ればいいのかさっぱりわからなくて。ペットショップの店員さんが「様子を見てあげてくださいね」って言ってたけど、様子って何…? 寝てるか、走ってるか、ご飯食べてるか。それくらいしか分からなかったんだよね。でも三日目の朝、キッチンで水を飲んでる姿を見たとき、ふと「あれ、昨日より飲む回数多くない?」って思った瞬間があって。そこから急に、いろんなことが気になり始めた。
食事の時間になると、うちの猫は必ず同じ場所で待ってる。窓際の棚の上。そこから私の手元をじっと見下ろしてくるんだけど、ある日その「待ち方」がいつもと違った。なんていうか、視線の温度が低いっていうか。で、フードを出したら、いつもなら秒で飛びついてくるのに、その日は匂いを嗅いでから少し間を置いて食べ始めた。
このタイミングで気づけたのは、たまたま前日の夜に食べ残しがあったから。普段は完食するタイプだったのに、三分の一くらい残してた。その時点で「もしかして体調悪い?」って思ったんだけど、様子見してたらやっぱり次の日も食欲が戻らなくて。結局病院に連れて行ったら、軽い胃腸炎だった。先生には「気づくの早かったですね」って言われたけど、本当はもっと早く気づけたはずなんだよね。
ちなみに私、実家で犬を飼ってたことがあるんだけど、犬ってわりと「具合悪い」が分かりやすい。元気ないとか、散歩行きたがらないとか。でも猫は違う。隠すのが上手すぎる。
動きの変化も、意識しないと見逃す。うちの猫、普段はリビングとキッチンを行ったり来たりして、一日に何度もジャンプしてる。テーブルの上、冷蔵庫の上、カーテンレールの縁。本当にどこにでも登る。けど、ある週末に気づいたのは「今日、一回もジャンプしてない」ってこと。歩いてはいるし、寝てもいる。でも高いところに行かない。これ、もしかしたら関節が痛いのかもって思って触ってみたら、後ろ足をちょっと引っ込めた。
その時は結局、前日に窓の外で鳥を追いかけようとして変な体勢で着地したのが原因だったみたいで、二日くらいで治ったんだけど。でもあの「いつもと違う動き」に気づけたのは、毎日見てたからだと思う。数字で測れるものじゃないから、記録もできないし、説明もしづらい。ただ「なんか違う」っていう感覚。
トイレの回数とか、毛づくろいの時間とか、寝る場所の選び方とか。そういう細かいことが全部、体調のバロメーターになってる。例えばうちの猫、冬はエアコンの真下で寝るのに、夏は廊下の隅っこで寝る。でもある夏の夜、いつもの廊下じゃなくてクローゼットの中に入り込んでた。暗くて狭いところ。これって、もしかして体調悪くて隠れてるのかなって思ったら、案の定、翌朝ちょっと吐いた。
吐くこと自体は猫にはよくあるらしいんだけど、その「予兆」に気づけるかどうかで対応が変わる。吐いた後にすぐ水を飲ませるべきか、少し様子を見るべきか。そういう判断も、普段の様子を知ってるかどうかで全然違ってくる。
あと、意外と大事なのが「触ったときの感触」。毛並みの艶とか、皮膚の張りとか、体温とか。これも毎日触ってないと分からない。うちの猫、夏場は耳がひんやりしてるのに、ある日触ったら妙に熱かった。熱中症の一歩手前だったみたいで、すぐにエアコンの温度下げて、水を新しいのに替えたら落ち着いた。もし触る習慣がなかったら、気づかなかったと思う。
そういえば友達が「ペット用の健康管理アプリ使ってる」って言ってたから、私も一時期試したんだけど、結局続かなかった。記録するのが面倒っていうより、数値化できないことの方が多すぎて。「今日、目つきがいつもより鋭い」とか「尻尾の振り方がゆっくり」とか、そういうのってアプリに入力できないし。
結局のところ、一緒にいる時間の長さじゃなくて、「見てる密度」なんだと思う。一日中家にいても、スマホばっかり見てたら気づかない。逆に、仕事で家を空けてても、帰ってきた瞬間に「あれ?」って思えることもある。
最近は、朝起きたときの猫の第一声(鳴き方)で、だいたいその日の調子が分かるようになってきた。高めの声で「んにゃー」って言うときは元気。低めに「ん…」って言うときは、ちょっと眠いか、機嫌悪いか。無言でこっちをじっと見てるときは、何か訴えたいことがある。
完璧に理解できてるわけじゃないし、これからも見逃すことはあると思う。ただ、気づこうとする姿勢だけは持ち続けたいなって。
それだけ。

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