本を開くと必ず現れる猫という生き物について

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ページをめくった瞬間、視界が灰色の毛で覆われた。

うちの猫は私が本を読み始めると必ず現れる。まるでレーダーでも搭載しているかのように、ソファに座って文庫本を開いた途端、どこからともなくやってきて、開いたページの真ん中にどっかりと座る。しかも申し訳なさそうな顔ひとつしない。むしろ誇らしげというか、「ほら、俺様が来てやったぞ」みたいな顔でこっちを見上げてくる。本よりも俺を見ろ、と言わんばかりに。

最初の頃は可愛いと思っていたんだけど。

三ヶ月くらい前、新しく買った推理小説があって、これがすごく評判良くて、やっと読める時間ができたから夜の10時過ぎにコーヒー淹れて、照明を少し落として、さあこれから犯人を推理するぞって気合い入れて読み始めたわけ。そしたら五ページも進まないうちに、例のごとく膝の上にドスンと乗ってきた。体重5キロ。文庫本を持つ両手の間に、完璧なタイミングで顔を突っ込んでくる。ゴロゴロ喉を鳴らしながら。

正直、腹が立つ。立つんだけど、その丸い頭を見ていると怒る気も失せてくるから困る。耳の後ろを掻いてやると、さらに大きな音で喉を鳴らして、本に向けていた視線を完全に奪っていく。犯人が誰なのか知りたいのに、目の前にいるのは毛むくじゃらの妨害者だけ。ページは一向に進まない。

そういえば前に飼っていたハムスターは、こんなことしなかったな。ケージの中で勝手に回し車を回して、勝手に寝て、人間の都合なんてまるで気にしていなかった。あれはあれで寂しかったけど、少なくとも読書の邪魔はされなかった。猫という生き物は、人間が何かに集中している瞬間を狙って介入してくる習性があるんじゃないかと本気で思う。

本を膝の横にずらしてみる。すると猫もそっちに移動する。反対側に置き直す。また移動する。まるでゲームみたいに、私が本を動かすたびについてくる。諦めて本を閉じると、満足したように私の太ももの上で丸くなって寝始める。その寝顔があまりにも平和で、さっきまでの攻防が嘘みたいに思えてくる。

休日の昼下がり、窓から差し込む春の光が心地よくて、久しぶりに積読を消化しようと思った日があった。エッセイ集を手に取って、お気に入りのブランケットを膝にかけて、完璧な読書環境を整えた。三ページ読んだところで、案の定やってきた。今度は本の上に直接乗っかるという大胆な作戦に出てきて、文字が完全に読めなくなった。前足で本の角を押さえつけて、「これ以上読ませないぞ」とでも言いたげな態度。

かまってほしいんだろうな、というのは分かる。分かるんだけど、こっちにも読みたい本があるわけで。特に良いところで中断されると、物語の世界から現実に引き戻される感覚が妙に切ない。主人公が今まさに大事な決断をしようとしているところで、視界を猫の肉球で遮られる。その肉球はピンク色で、少しだけ湿っていて、小さな黒い斑点がある。

友達に愚痴ったら、「それって愛されてる証拠じゃん」って言われた。確かにそうかもしれない。でも愛されすぎて本が読めないって、なんだか本末転倒な気もする。猫用のおもちゃを買ってきて気を引こうとしたこともあるけど、おもちゃには見向きもせず、私が本を持つとまた膝に乗ってくる。優先順位が完全に決まっているらしい。

夏の夜、扇風機の風が心地よい時間帯に、ホラー小説を読んでいた。ちょうど怖い場面で、背筋がゾクッとしたタイミングで膝に飛び乗ってきて、心臓が止まるかと思った。怖いのは幽霊じゃなくて猫だった。その時の私の悲鳴を聞いて、猫は不思議そうな顔をしていた。お前のせいだよ、と言っても通じない。

最近は諦めて、猫が膝に乗ってきたら片手で撫でながら読むようになった。効率は悪いけど、これはこれで悪くない。本のページをめくる音と、猫の寝息が混ざり合う。たまに寝言みたいに小さく鳴いたりする。読書のペースは確実に落ちたけど、一冊読み終わるまでの時間が長くなった分、物語の余韻を味わう時間も増えた気がする。

結局、本と猫、どっちを選ぶかなんて選択肢は最初からなかったんだろうな。両方と付き合っていくしかない。今日も新しい本を買ってきたけど、きっとまた邪魔されるんだろうな…って思いながら、それでもページを開いてしまう。

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