本を開くと必ず現れる猫という生き物について

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ページをめくった瞬間、視界の端で何かが動いた。

うちの猫は私が本を開くタイミングを完璧に把握している。ソファに座って文庫本を膝に置いた瞬間、どこからともなく現れて、まるで磁石に引き寄せられるみたいに私の膝の上、いや正確には本の上に乗ってくる。しかもただ乗るだけじゃなくて、わざわざ開いているページのど真ん中を狙ってくるんだよね。最初は偶然かと思ってたけど、これ絶対わかってやってる。

土曜日の午後3時くらい、陽が斜めに差し込んでくる時間帯が一番ひどい。リビングの窓際で推理小説を読んでいると、茶トラの前足がそっとページの端に置かれる。無視して読み続けようとすると、今度は顔を本とわたしの顔の間にねじ込んでくる。ゴロゴロ音が聞こえる。至近距離でピンクの鼻が見える。

「今いいとこなんだけど」って言っても通じるわけがない。

前に試しに電子書籍リーダーで読んでみたことがあるんだけど、結果は同じだった。むしろ画面の上に座られて、温度センサーが反応して勝手にページがめくられるという新しい被害が追加されただけ。タブレットの画面に肉球の跡がついて、それはそれで可愛いんだけどさ…だけど。

猫を飼う前は、読書って完全に個人的な時間だと思ってた。静かな部屋で、お気に入りのマグカップにコーヒーを入れて、好きな作家の新刊をゆっくり味わう。そういう理想的な休日の過ごし方を想像してたんだよね。実際には、3ページ読むごとに猫の頭を撫でて、5ページ読むと猫が本の上で寝始めて、気づいたら自分も一緒に昼寝してるみたいな状況になってる。

ちなみに去年の夏、あまりにも邪魔されるから「キャットアウェイ」っていう猫用の爪とぎ付きタワーを買ったんだけど、全然効果なかった。1万2千円もしたのに。今ではただの物置になってる。猫ってそういうところあるよね、高い専用グッズは無視して、なぜか段ボール箱に入りたがる。

本を読んでいる時の私の膝が特別なんだと思う。スマホをいじってる時は来ない。パソコンで仕事してる時も来ない。でも本を開いた瞬間、まるでスイッチが入ったみたいに寄ってくる。多分、本を読んでる時の私は動きが少なくて、膝が安定した場所になるからなんだろうけど、それにしたって毎回毎回、よくもまあ飽きずに邪魔しに来るもんだと感心する。

最近気づいたんだけど、猫が本の上に乗ってくる時、必ず私の目を見る。「ねえ、こっち見て」って言ってるみたいな顔をする。ページの文字よりも自分を見てほしいんだろうね。実際、本を閉じて猫を撫でてやると、満足そうに喉を鳴らして、しばらくすると自分から降りていく。要するに、読書を邪魔したいんじゃなくて、注目してほしいだけなんだと思う。

夜の11時過ぎ、ベッドサイドのランプだけつけて本を読んでると、暗闇の中から緑色に光る目が近づいてくる。ホラー映画みたいだけど、うちではもう日常の風景。布団の上を歩いてきて、開いている本の谷間にすっぽり収まる。暖かい。ページをめくる音と、猫の寝息が混ざる。本の内容は全然頭に入ってこないけど、これはこれで悪くないかもって思ったりする。

友達に「猫に邪魔されて本が読めない」って愚痴ったら、「それって幸せな悩みだよね」って言われた。確かにそうかもしれない。でも当事者としては、クライマックスで主人公が犯人を指摘する瞬間に猫の尻尾で視界を遮られる理不尽さをわかってほしい。

結局のところ、私は本を読みたいし、猫は構ってほしい。この平行線は永遠に交わらないんだろうなって思う。最近は諦めて、猫が乗ってきたら一旦本を閉じて、5分くらい撫でてから再開するようにしてる。効率は悪いけど、喧嘩するよりはマシ。

そんなわけで、今日も私の読書は猫によって中断される。まあ、いいか。

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