
休日の午後、ようやくソファに腰を落ち着けて本を開く。
読書って本当に贅沢な時間だと思う。スマホの通知もオフにして、コーヒーを淹れて、さあこれから物語の世界に没入するぞって気合を入れた瞬間。うちの猫のマロが、どこからともなくやってくる。別に呼んでないのに。さっきまでキッチンの窓際で日向ぼっこしてたくせに、本を開いた途端に私の存在を思い出したかのように、トコトコと歩いてくるわけ。
で、最初は足元をウロウロする程度なんだけどね。
これがまた計算されてるんじゃないかってくらい、物語がいいところに差し掛かった瞬間を狙ってくる。主人公がついに真相に辿り着きそうな場面とか、恋愛小説ならキスシーンの直前とか。そういう「ページをめくる手が止まらない」ってタイミングで、ドスンと膝の上に飛び乗ってくる。しかも必ず本の上に前足を置く。ページが見えないように、ピンポイントで。あの精度、本当にすごいと思う。どうやって狙ってるんだろう。
前に友達のユミに「猫飼ってる人あるあるだよね」って話したら、「うちの猫はパソコン作業中にキーボードの上に乗る」って言ってた。種類は違えど、やることの本質は同じ。要するに「今あなたが集中してるもの」に割り込みたいらしい。
ちなみにマロは三歳のキジトラで、普段は割と自立してるタイプ。朝ごはん食べたら勝手にどこかで寝てるし、夜も自分のベッドで寝る。だから余計に、この「読書妨害」の執念深さが際立つ。本を読んでる時だけ、異常なまでに甘えてくる。雑誌でもダメ、漫画でもダメ。活字が並んでるものを私が見てると、必ず介入してくる。
最初の頃は「ちょっと待ってね」って優しく下ろしてたんだけど、これが通用しない。下ろしても下ろしても戻ってくる。しかも回を重ねるごとに乗り方が大胆になってきて、最終的には本と私の顔の間に割り込んでくる。視界を完全に塞ぐ形で。ゴロゴロ喉を鳴らしながら、私の鼻先に自分の鼻をくっつけてくる。至近距離すぎて目のピントが合わない。
そうなるともう読書どころじゃない。本を諦めてマロを撫でると、満足そうに目を細める。で、十分くらい撫でてあげると、今度は急に「もういいや」って顔をして、スッと離れていく。用が済んだら即解散。こっちの都合なんてお構いなし。
去年の冬なんて、布団の中で読書しようとしたら、布団ごと占領された。私が布団に入る→本を開く→マロが布団に潜り込んでくる→本の下(つまり私の胸の上)に陣取る、という完璧な流れ。本を持つ腕が疲れるし、マロの重みで呼吸が浅くなるし、でも温かいし、ゴロゴロ言ってるし。結局その日は三ページしか進まなかった。
ネットで調べてみたら「飼い主が本に夢中になってると、本に嫉妬する」って説があるらしい。本という物体が、自分より優先されてるのが気に入らないんだって。確かにそうかもしれない。私がスマホ見てる時はそこまで邪魔してこないから、「紙の本」という物理的な存在が、より強い対抗意識を生むのかも。
最近は諦めて、読書の時間にマロ用のおやつを用意するようになった。本を開く前に「カリカリボーロ」っていう猫用のお菓子をちょっとだけあげる。これで五分くらいは稼げる。その間に集中して読む。でもおやつを食べ終わったマロは、やっぱり戻ってくるんだけど。
結局のところ、猫と暮らすってこういうことなんだと思う。自分のペースで生きられない。計画通りにいかない。読みたい本があっても、猫の気分次第で中断される。
でもまあ、本はいつでも続きが読めるしね。猫が膝の上でゴロゴロ言ってる時間は、今この瞬間だけだから…だけど。

コメント