私の日常は、一匹の賑やかな猫によって完全に支配されていた。その猫は、まるで永遠に尽きることのないエネルギーの塊のように、朝から晩まで家中を走り回っている。今この瞬間も、リビングのソファから書斎の本棚へと、まるでピンボールのように跳ね回っているのが見える。
「もう、いい加減にしてよ…」
私の言葉も空しく、彼女は構うことなく新しい遊び場を見つけては騒ぎ立てている。つい先ほどまで静かだったはずの部屋が、まるでサーカスの舞台と化してしまう。カーテンを登り、テーブルの上を駆け抜け、時には天井近くの棚にまで飛び乗る様は、重力すら無視しているかのようだ。
この猫、ミィを飼い始めてからもう3年が経つ。保護猫として引き取った時は、もう少し大人しい性格になるだろうと期待していた。しかし、年齢を重ねるごとに彼女の活発さは増す一方で、今では完全に手に負えない存在となっている。
「はぁ…」
深いため息が漏れる。パソコンで仕事をしようとしても、キーボードの上を歩き回られ、画面に尻尾が邪魔をする。集中しようとすればするほど、彼女の存在感は増していく。時には画面に映る自分の姿に興奮し、モニターに飛びかかることすらある。
そんな彼女を叱ろうとしても、その大きな瞳でじっと見つめられると、どうしても言葉が出てこない。結局は「まあいいか」と諦めて、彼女の気が済むまで待つしかないのだ。これが毎日の日課となっている。
突然、キッチンから物音が聞こえた。慌てて駆けつけると、案の定、流し台の上で華麗なダンスを披露している最中だった。水滴を避けながら、器用に足場を確保し、まるでバレリーナのような優雅な動きを見せる。その姿は確かに美しいのだが、周りは水浸しで、食器は危険な状態だ。
「ちょっと!そこは危ないでしょ!」
声を上げた瞬間、彼女は軽やかにジャンプし、私の肩の上に着地。まるで何事もなかったかのように、得意げな表情で私を見下ろす。この瞬間、私の怒りは完全に霧散してしまう。代わりに込み上げてくるのは、呆れと愛おしさが混ざった複雑な感情だ。
夜になっても彼女の活動は続く。就寝時間になると、さらにハイテンションになるのが常だ。布団に入ろうとすると、まるで合図を待っていたかのように猫パンチの嵐が始まる。枕を蹴散らし、布団の中に潜り込み、時には私の髪の毛で遊び始める。
「おやすみって言ってるでしょ…」
私の懇願も虚しく、彼女の夜の運動会は続く。最終的には疲れ果てた私が先に眠りについてしまうのが常だ。そして朝、目覚めると必ず彼女は私の胸の上で丸くなって眠っている。その寝顔は天使のように穏やかで、数時間前まで暴れまわっていた姿が嘘のようだ。
休日も例外ではない。むしろ私が家にいる時間が長いぶん、より多くの騒動が起きる。本を読もうとすれば、ページの間に割り込んでくる。テレビを見ようとすれば、画面の前で華麗なジャンプを披露する。掃除機をかければ、まるで天敵でも現れたかのように大騒ぎになる。
時には友人が訪ねてくることもある。そんな時、彼女は突如として別人のように大人しくなる。優雅に歩き、上品に鳴き、まるで淑女のような振る舞いを見せる。友人たちは口を揃えて「なんて良い子なんでしょう」と褒めるのだが、それを聞くたびに私は苦笑いを浮かべるしかない。
彼女の本性を知っているのは、この家で一緒に暮らす私だけなのだ。帰宅するたびに玄関で出迎えてくれる姿、食事の時間になると催促してくる可愛らしさ、たまに膝の上で眠る温もり。そんな穏やかな時間も確かにある。しかし、それはあくまでも彼女の多面的な性格の一つに過ぎない。
今日も彼女は変わらず元気いっぱいだ。窓辺で鳥を見つけては興奮し、カーテンを引きずり落とし、観葉植物の土をばらまく。その度に私は呆れた表情で彼女を見つめ、ため息をつきながら後片付けをする。でも不思議なことに、怒る気にはならない。
それは恐らく、この賑やかで予測不可能な日々が、既に私の生活の一部となっているからかもしれない。静かな時間が欲しいと思うことはあるが、もし彼女がいなくなったら、この家はきっと寂しすぎるだろう。
夕暮れ時、窓際で外を眺める彼女の横顔を見つめながら、私はまた新たな発見をする。猫という生き物は、私たち人間の常識や期待を軽々と超えていく。彼女は決して私の思い通りにはならない。でも、それこそが彼女の魅力なのかもしれない。
時計を見ると、もうすぐ夕食の時間だ。きっとまた彼女は、私の足元でくるくると回りながら催促してくるだろう。そして食後には、新たな冒険が始まることは目に見えている。私は既に覚悟を決めている。今夜も、呆れながらも愛おしく彼女を見守り続けるのだ。
結局のところ、これが私と彼女の日常なのだから。賑やかで、時に疲れるけれど、確かな幸せに満ちた時間。それを紡いでいくのは、永遠に謎めいた存在である彼女と、呆れながらも受け入れる私。この不思議な共生関係は、きっとこれからも続いていくのだろう。
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